スタートアップの失敗を避けるための十分条件は存在しないが、必要条件はある。
スタートアップは「9割は失敗する」といわれる厳しいビジネスです。
プールに浮かんだ丸太の端から端まで渡る競技のように、参加者は次々に落水してずぶ濡れになって退場します。
失敗の理由はさまざまあり、ここさえ気をつければ必ず成功するという金科玉条はありません。
しかし、「ここが抜けていたら必ず失敗する」という、スタートアップにとっての本質的要件はあります。
それは、プロダクトが顧客自身が気づかなかったニーズ、欲望に火をつけるものであることです。
この記事では、そんなニーズ、欲望に、どうすればプロダクトの照準を合わせ切ることができるかを考えます。
目次
スタートアップの失敗を避けるための必要条件①:エグジット(出口)について考える
スタートアップのExitは新規株式公開(上場)か事業売却だといわれています。
要するに何十億円か何百億円かの大金を集中できたときがスタートアップのゴールというわけです。
正直のところ、そういうエグジットを夢見ないスタートアップの起業家は少ないでしょう。
しかし、立ち上げから出口を目指している起業には、なにか足りない点、抜け落ちてしまいがちなことがないでしょうか?
- サイトを作って〇億円で売る
- 自分が金持ちになるための起業は頭打ちになる
- 自分たちの仕事で、どう人を幸せにするのか
サイトを作って〇億円で売る
週刊ダイヤモンドのオンライン版にReproの平田祐介社長へのインタビュー記事が掲載されています。(https://diamond.jp/articles/-/214954)
Reproは、Webやアプリで顧客との付加価値の高いコミュニケーションを実現するプラットフォームを提供して急成長している会社です。
その記事で平田社長は、それまでの2度の起業の失敗を「サイトをつくって、5億円で売って、好きに旅をする人生を過ごす――結局そういう考えでは、自分のお金のために起業している状況だったので、うまくいかなかったんだろうなと思います」と振り返っています。
自分が金持ちになるための起業は頭打ちになる
金持ちになってハッピーExitすることを目指した起業は、なぜうまくいかなかったのでしょうか?
平田氏はそれを次のように述べています。
「自分が金持ちになるために起業する」というマインドはサービスにも反映されるし、何より従業員にバレるんですよ。コンサルでは「頂いている以上の価値を相手に提供する」と言っていたんですが、結局は自分のための起業になっていました。そんな低い理念や視座では人はついてこないし、サービスもちょっと利益が出たら頭打ちになります。
引用元 : https://diamond.jp/articles/-/214954?page=4
強調は引用者
「結局お金が目的」というスタートアップでは、なぜ社員がついて来ず、サービスが頭打ちになるのでしょうか?
その理由を平田氏は、お金ではない企業の理念をつかんでいないと、事業の胸突き八丁のしんどい局面で、人をつなぎ止め、サービスを底上げするパワーが生まれないからだと考えます。
自分たちの仕事で、どう人を幸せにするのか
では、そんな底力を発揮する企業の理念とはどんなものでしょうか。
平田氏は企業の理念(事業の本質)とは、次のような問いを社員といっしょに発し続け、答を追及していくことだといいます。
「自分たちが働いた結果として、社会をどう変えたいのか」
「誰を助けたいのか」
「どうやって人を幸せにするのか」
こういう建前で本音はお金儲けにある、という企業はたくさんありますが、Reproは本気でそれを考えたというのです。
スタートアップの失敗を避けるための必要条件②:顧客ニーズを深いレベルでつかむ
「こんなサービスがあれば便利じゃないかな」
「なんとかシステムも作れそうだ」
「もしかすると、とんでもない大きなニーズがあるかもしれない」
スタートアップは立ち上げメンバーのこんな会話からスタートすることが多いのかもしれません。
しかし、スタートアップのメンターとして有名な田所雅之氏は、そんなスタートアップの多くに「自分たちはスタートアップやってるぜ症候群」が診られると警鐘を鳴らしています。
彼によると、この症候群にかかると失敗(丸太から滑り落ちてずぶ濡れになって退場)することがほぼ運命づけられています。
この章では、田所氏の著書「入門 起業の科学」(日経BP社)から、「そこを抜かしてはスタートアップは必ず失敗する」と彼が指摘する急所をピックアップして紹介します。
- 「こんなことができる」という技術からプロダクトを発想していないか
- 課題が「自分ごと」になっているか
- 他の人が知らない秘密を知り得る専門性があるか
- 100人中99人が反対するアイディアこそがセクシーだ
「こんなことができる」という技術からプロダクトを発想していないか
グーグルグラスや初期のアップルウォッチの失敗の原因は、「わが社の技術でこんなことができる」という、いわば解決策が先行した形で製品作り(課題の設定) をしたことです。
グーグルやアップルでさえそうなのだから、「資金も人材も知名度もないスタートアップが課題を軽視した製品を作ったらどうなるか?それは自殺行為と言えるでしょう」(「入門 起業の科学」Kindle 版 No.237-238)
田所氏は、優れたアイディアを見つける筋道は、「課題の質を上げてから解決策の質を上げると」いう道筋しかないと言います。
「最初の課題設定の磨き込みが甘い製品ほど、後になって『なぜか思ったほど売れない』という結果につながりやすいのです」(同書 No.243-244)
課題が「自分ごと」になっているか
では、「課題の質を上げる」にはどうしたら良いのでしょうか?それは、他人ごとの課題ではなく「自分ごと」の課題に取り組むことです。
ジェームズ・ダイソンがサイクロン掃除機の開発に着手したのは、超きれい好きで、従来の紙パック掃除機の吸い込みの弱さに大きな憤りを覚えていた自分の課題を解決するためでした。
ミドリムシを食用するバイオベンチャー「ユーグレナ」の出雲 充 社長は、大学のインターンシップで訪れたバングラデシュで、栄養失調に苦しむ多くの人日に出会ったことが創業の原点でした。
「『将来市場が大きくなって儲かりそうだから』『何となくタイムリーだから』といった動機で他人ごとの課題に取り組むべきではありません」 (同書 No.296-298)
田所氏は、課題の磨き込みをする推進力になるのが、「自分事になっていることで得られる熱量であり本気度」だと述べています。
他の人が知らない秘密を知り得る専門性があるか
自分ごとで切実な課題に取り組んだら、次に押えるべきポイントは「人と同じことをしない」ことです。
「他の人が目をかけないようなポイントに注目してアイディアを掘り下げ、まだ誰も言語化できていない秘密を見つけてられるかどうか。そこが成功のカギを握ります」(同書 No.313-314)
元アマゾンの物流システムの開発エンジニアだったアプールバ・メータ 氏は、「赤の他人をスポットで雇いスーパーでの買い物を代行してらうスマホアプリ」を開発して大成功をおさめました。
この見るからにリスキーで問題だらけのように思えるシステムに、物流の専門家であるメータ氏は、顧客のまだ言語化されていない強いニーズを察知したのです。
100人中99人が反対するアイディアこそがセクシーだ
誰が聞いても良いアイディアは、市場が混みあいます。価格競争が起きやすく、顧客獲得コストが上がります。
そうなると、経営資源の豊富な大企業が圧倒的に有利で、人もお金もないスタートアップに勝ち目はありません。
スタートアップが取り組むべきなのは、100人中99人の目からは魅力的に見えない課題です。
「宇宙ゴミを回収するスタートアップ、アストロスケールを立ち上げた岡田光信CEOは、自分のアイディアが周囲からことごとく否定されたことを受け、「市場が定義されていない状態」だと判断し、事業化を決心したそうです。(同書 No.406-408 強調は引用者)
スタートアップの失敗の代表例:思ったほど売れない事態を避けるには
ここまで見てきたように、スタートアップは「いけそうなアイディア」を思いついたくらいで上手くいくものではなさそうです。
言い換えると、最初にしんどい目をしておかないと、必ずどこかで頭打ちになるのがスタートアップです。
では、「最初の苦労のしどころ」は、どんな所にあるのでしょうか?
- いかにも魚のいそうな池に糸を垂れない
- 取材を重ねてリアルを追及する
- 振り出しに戻るのをためらわない
いかにも魚のいそうな池に糸を垂れない
間抜けな釣り人の代表といわれるのが、魚などいるわけがない水たまりに糸を垂れている釣り人です。
しかし、スタートアップのブルーオーシャンは、魚がいることが保証されている釣堀ではなく、ただの水たまりにしか見えない池の方です。
通りかかる人の誰もが「そんな所に魚はいないよ」と忠告するプロダクトやサービスこそが「爆釣」の可能性を秘めているのです。
取材を重ねてリアルを追及する
アイディアを頭の中でこねまわしても、あるいは仲間内だけで検証しても、リアルなニーズは見えてきません。独りよがりのプロダクトは顧客の熱烈な支持を受けることはできず「思ったほど売れない」のです。
新聞記者は足で書けと言われるように、取材の量が記事の良し悪しを決定します。
アイディアや仮説を試す期間を早足で駆け抜けようとせずに、ターゲットに投げかけながら、じっくり練り込み、修正を重ねることが肝要です。
振り出しに戻るのをためらわない
最初の方向性にこだわって、微調整だけで問題を解決しようとすると、やりは「思ったほど売れない製品」にしかし仕上がりません。
スタートアップはマーケットに合う製品を作るのではなく、それまで存在しなかったマーケットを創る仕事なのですから、とんとん拍子に進むことは期待できません。
双六でいえば「振り出しに戻ってやり直す」勇気が必要です。
じわじわ顧客を増やす製品を作るのではなく、リリースしたときには一気に顧客を獲得できるレベルまで磨きこむべきです。
スタートアップの失敗について まとめ
水に浮かんだ丸太の端から端まで渡るレースなら幸運によってゴールできることもあるでしょうが、スタートアップが幸運で成功することはありません。
「サイトを作って〇億円で売る」というだけではない理念と、顧客の幸せをとことん追及する妥協しない製品づくりが必要です。
