〜ダイバーシティを体現するIT企業 × 本業のマネタイズとの両立を模索する若きCTO〜【ITプロ×クライアントインタビュー】#8 株式会社Speee

株式会社Speeeエンジニアマネジメント責任者 兼 エンジニア採用責任者 是澤太志(写真:左)/ベンチャー企業CTO 染谷洋平(写真:右)
「技術力があれば、働き方は問わない」として優秀なエンジニアを広く求めていた株式会社Speeeと、アーリーステージにある「本業」を支えてくれる新しい働き方を求めていた若き起業家。
ITプロパートナーズを介して出会った両者は、求めるものを互いの中に見つけ、ともに働くことを決めた。
同社は、週3日の出勤であろうと、完全なリモートであろうと、持てる技術力とナレッジを同社のサービス向上のために発揮してくれる人であれば、社員と同じ福利厚生で遇する。
エンジニアマネジメント責任者でありエンジニア採用責任者でもある是澤太志氏の言葉を借りれば、「エンジニアにとって技術力は正義だから」だ。
企業は社外から優れた技術を取り入れ、技術者は本業を成功させるためのベースとなる仕事を手に入れる。
「自立した人材を増やし、新しい仕事文化をつくる」という、ITプロパートナーズが掲げるビジョンを体現するかのような働き方に迫った。
Profile
<企業担当者> 是澤太志(これさわ ふとし)氏
株式会社Speee エンジニアマネジメント責任者 兼 エンジニア採用責任者。2000年からIT業界に飛び込み、20代の頃は主にリードエンジニアとして、30代からは組織やプロジェクトのマネジメントを中心に活動。6回の転職と10社での多種多様な事業開発を経験。起業や個人事業主として活動していた時期もあり技術顧問や技術アドバイザーなどの経験も積む。シーエー・モバイルにて研究開発部署の立ち上げやALBERTで技術責任者、フリマ系ベンチャーでCTOを経験し、SpeeeにてWebマーケティング事業部の開発責任者を務めたのち、現在はエンジニア採用を中心にエンジニアの組織系の責任者を務める。
<ITプロ> 染谷洋平(そめや ようへい)氏
東京大学獣医学過程を卒業後、株式会社サイバーエージェントでインターネット広告事業に携わる。入社3年目にして「自らの手でものづくりをしたい」という思いが強まり、エンジニアに転向。2015年には、シェアリングエコノミー関連の新しいサービスにチャレンジするベンチャー企業にCTOとして参画した。現在は別サービス新規立ち上げの傍ら、Speee社で週3日ほど勤務している。
業務委託で採用する最大の利点は、「ここにない技術力」を持っていること
染谷:ちゃんと話すのって、これで3回目くらいですか。
是澤:そうかな。面談のときにかなり話しこんだような気がしますね。染谷さんがサイバーエージェントで働いていたときの同僚が、僕の昔の仲間で。共通の知り合いがいるっていうことで盛り上がったのを覚えています。
染谷:そうでした(笑)。あれからもう半年になります。
是澤:その半年で、染谷さんにいま関わってもらっている不動産一括査定サイト「イエウール」は業界No.1と言えるサービスへとステップアップしました。新規事業としてスタートして、ついこの間2歳になったばかりの事業が驚くほどのスピードで成長する中、染谷さんはキャッチアップが速くて助かったと現場から聞いています。サイバーエージェントで広告をやっていた経験から、運用する人の気持ちを考えて適切なアドバイスをしてくれるという声もあり、これまで蓄積してきたナレッジを適切に生かしてくれているなあという印象です。染谷さん自身は、半年経ってみてどうですか。
染谷:前職とは全く違う分野なので、最初は戸惑いもありました。広告は目に見えない部分の開発がメインで、ユーザーも幅広い。一方「イエウール」の開発は目に見えるところがほとんどで、ユーザーは「不動産を売りたい人」と限定的です。toCのwebサービスの開発も新しい経験になるので、日々刺激を受けています。
是澤:既にニーズのある人が検索してくるから、そこをいかにコンバージョンさせるかという部分が重要になってきますね。どちらかといえばニッチなメディアなわけだけど、1件成約するとビジネスとしては大きい。1件のコンバージョンをシステムエラーで取り逃がすと売り上げにもインパクトがあるから、エンジニアの緊張感という意味では広告に共通するものがあるんじゃないかな。
染谷:確かに緊張感は似ていますね。ただ、一緒に「イエウール」の開発に携わる人たちはもちろん、外壁・屋根塗装を行いたいユーザーに優良施工業者を紹介する「ヌリカエ」のエンジニアチームともコミュニケーションを取りながら開発を進められるので、仕事の広がりを感じる場面も多々あります。
是澤: 僕らとしては、染谷さんのように業務経験豊富な人が業務委託という形で入ってくれることによって、今不足している部分を実践に基づく知見で補ってくれるというところに大きなメリットを感じています。内外のエンジニアが良い化学反応を起こせると良いですね。
「技術力は正義」-働き方によって区別することは一切ない
是澤:染谷さんは、本業と両立するために業務委託というスタイルで働いているんですよね。
染谷:はい。訪日外国人向けのマッチング、決済サービスを提供するベンチャー企業にCTOとして参画しており、本業のマネタイズと両立できる働き方で、生きていくために金銭的なベースとなる仕事を探していました。また、一緒に働いているメンバーのうち僕だけがエンジニアなので、技術面での意見交換や交流の場がなく、情報を得られる環境がほしいと思ったのも理由のひとつです。いくつかの会社と面談をする中でSpeeeさんと出会ったのですが、決め手になったのは実際にお話をする中で事業の面白さが伝わってきたこと。そして2つの部署からオファーをいただき、配属先を自由に選べたことでした。1社が同時に2つのオファーを出してくださるって、珍しいですよ。
是澤:優秀な人にはそれだけ需要があるということです。そして、需要がある人には選ぶ権利もあるのは当然ですよね。
染谷:そうした考え方を含めて、非常にフラットな組織ですね。実際に働き始めてからも、ひとりのエンジニアとして仕事を任されているという実感があります。
是澤:僕たちの技術力はまだまだ成長途上なので、社内のエースのエンジニアにも、他のメンバーの教育より自分の技術を伸ばすことに時間を割いてほしいと思っています。だから、現場を技術力で引っ張っていってくれる経験豊富な人というのはとても重要なんです。エンジニアにとって「技術力は正義」だと思っていますから、人間性に技術が伴っていれば働き方によって区別することは一切ありません。技術力のある人が多様な選択肢から働き方を選べるというのは当然ですし、技術力を求める当社としてはそういった方に活躍いただきたいと思っています。
染谷:業務委託であっても会議には自由に参加できますし、裁量も大きい。福利厚生の面でも社員の皆さんと変わらない待遇だと感じています。最新スペックのマシンだけでなく、申請すればキーボードも希望のものを支給してくれますよね。入社当初、配布されたMacが日本語(JIS)キーボードでそのことを何気なく話したら、1週間くらいで新品のUSキーボードのMacが届いて驚きました(笑)。チームのメンバーも同じ年齢層の方が多いということもあって、外部と内部の隔たりや組織の壁を感じることもないですね。それに、開発に集中できる環境であることがうれしいです。
是澤:私たちは人と組織の理想の在り方を「Speeeカルチャー」として15の項目として定義しているのですが、そのひとつに「組織成長への貢献」があります。これは、付加価値創造のための役割分担が組織の本質であるという内容で、組織成長という同じ目標に向かっている仲間であれば役割の違いは問わないということです。個人が勉強のために使っているサーバー費用も月1万円までは会社が補助しているのですが、もちろん業務委託でも適用されます。「RubyKaigi」のチケットも、雇用形態に関わらず希望した方の分は会社負担で参加してもらって、技術力向上の機会を創出してもらうようにしています。
染谷:フリーランスとして、ひとりでコツコツ開発するのも面白いし、やりがいもあると思うんです。でも、処理速度なり設備面なり、ある程度母体があって状況が整っていなければできないチャレンジがあるのも事実です。例えば、いま携わっている開発の現場で、Rails Engineを導入していたのですが、今後の開発効率やRails Engine本来の使い方になっているのかなどを考えて、現場主導でRails Engineからの脱却を決めました。仕事を通じてプロダクトのアーキテクチャを変えるという大きなジャッジができるというのも、規模感のある企業で働く利点だと思います。
是澤:自分でリスクを背負って自分でものづくりできるのがエンジニアという仕事の面白さであり、チャレンジして失敗して、1回1回答えを探していくことに本質があると思うんです。その本質をビジネスサイドの方も理解してもらっている、たとえ品質を上げるために開発スピードが落ちることがあったとしても説明の上で行なっているので、軋轢は生まれません。カルチャーや会社としてのスタンスも、エンジニアが開発に集中できる環境づくりを後押ししていると思います。
染谷:ジャッジに迷ったときの相談相手として、チームのメンバーだけでなく、開発部顧問である元クックパッド技術部長の井原さんのレビューがもらえるのもありがたいですね。
是澤:井原さんだけではなく、Speeeに協力してくれている開発会社の方々はRails開発のエキスパートです。こういったレベルの高い外部の方と仕事をする場は、エンジニアを飛躍的に成長させてくれますね。最近では、オープンソース活動に長けた外部の会社がオープンソースについての相談に乗ってくれる「オープンソース支援」も福利厚生の一環として取り入れ、「社内のエンジニアとしての成長」に加えて「一人のエンジニアとしての成長」も支援できるようにしました。成長意欲のあるエンジニアを広く受け入れる基盤として、今ある事業によってエンジニアを伸ばすだけでなく、プラスアルファのサポートを会社として用意しています。
いずれはエンジニアが「働き方」で仕事を選ぶ時代がくる
染谷: エンジニアはどちらかと言えばコミュニケーション能力が低いというのは、よく言われていることですよね。飲みに行って話してみると実は仕事に対して熱い思いを持っているんだけど、組織の中では発言できないという人も多い。僕自身は周囲とコミュニケーションを取りながら仕事をしたいほうなので、エンジニアが積極的に意見を出し合って互いを高めあえる組織で働けたら良いなと思っていたんです。Speeeで働き始めたとき、これが求めていた環境だと感じました。
是澤:エンジニアをはじめ優れた技術を持っている人の中に、自分なりのこだわりが強く、周囲の人と話すのが不得手というタイプの人が多いのは事実ですね。そうしたタイプの方が組織に加わることも多様化のひとつだと思うので、技術力に比重を置いて採用をしていますが、コミュニケーション能力の有無ももちろん見ています。
染谷:アイデアを気軽に発信できる雰囲気って良いですよね。それに、出した意見に対して、「現時点でビジネスにするのは難しいけど、これから考えていきたい」といったようにしっかりフィードバックしてくれるのも良いです。自分が出勤していないときにどんなふうに事業が進んでいるのか、どんな話し合いがされているのか、知らないものをもっと知りたいという気持ちがしだいに強まって、週3日勤務のはずが週5日来ていた時期もありました。
是澤:今後はどんな働き方をしたいと考えてますか?
染谷:本業とどうバランスをとっていくかという点が課題なので、色々と要望を出させていただきながら最善の形を模索しています。リモートで働けるのが理想ですが、やはりコミュニケーションが取れないと厳しい部分もあるので、はじめのうちは週に3日から4日ほど出勤して、形ができたらリモートに移行するという形が取れればいいいなと思っています。自由になりすぎると、会社としては大変になるかもしれませんが(笑)。
是澤:僕は純粋にIT業界や、ITにまつわる技術が好きで、Speeeの理念に共感できるという人がどんどん集まってくる組織になれば良いと思っているんですよ。事業も伸びていて、会社も成長しているフェーズなので、キャパシティを超えてエンジニアを採用するのもありだと思っています。よく、事業をしたいけどエンジニアが集まらない、エンジニアが集まらないから事業が進まないという負のスパイラルに陥って採用が後手後手に回っているという話を耳にしますが、「エンジニアが集まりすぎて困っている」と業界に対して言える側に回りたいですね(笑)。
染谷:「みんなもっと採用を頑張ってくださいよ!」ってですか?(笑)。
是澤:採用に関しては、世の中や業界が動いていく方向を見ながら、それとともに考えて理想の形を創っていく「共想」「共創」の意識が大切なんだろうなあと思ってます。このふたつを継続することによって自分たちが業界をリードできる立場になり、新しいライフスタイルや文化が生まれていくのかなと。
染谷:エンジニアはネット環境さえあればどこにいても仕事ができますから、これからはさらに多彩な働き方が生まれてくるでしょうね。
是澤:海外には、エンジニアの技術に投資する「目」があると思うんです。。しかし、日本はどちらかというとビジネス目線が強い。だからビジネス目線のエンジニアは育ち始めているけど、純粋な技術力が評価されにくく、それで勝負する意識が低い。この循環を変える何かをしなければいけない、ということに気付き始めた人がいるというのが今の日本のフェーズだと感じています。当社も従来はビジネス寄りの会社でしたが、今はデベロップと両輪で回すことによって良いサービスを作り、モノづくり文化というものを強く意識するようになりました。いずれは世の中に「自らの強みを活かしてこんな働き方をしたいから、Speeeで働こう」という流れを作ることができたらいいですね。