プロジェクトの立ち上げにはなぜ「プロジェクト憲章」が必要と言われるのか
プロジェクトに参加したことはあるがプロジェクトを立ち上げたことはない、という人が多いと思います。
そう、プロジェクトを立ち上げるのは「もっと偉い人」なのです。
しかし、そんな新鋭たちもプロジェクトマネジャーを任命されるようになれば、「立ち上げ」に関与することになります。
プロジェクトの本や記事にはよく「プロジェクトを立ち上げるときはプロジェクト憲章を作ろう」と書かれています。
「プロジェクト憲章」というなんだか大仰な言葉には違和感を覚える人も多いでしょうが、プロジェクト立ち上げの難しさや勘どころは、口にするのがちょっと照れくさいようなこの翻訳語に集約されています。
この記事では、プロジェクトを立ち上げる際に考慮すべきポイントを、PMBOKが必要性を力説する「プロジェクト憲章」から解説しています。
明日のPMをめざす方はぜひ参考にしてください。
プロジェクトの立ち上げとは
プロジェクトを立ち上げるのは「やらなければいけないこと」があるとき、あるいはクライアントから「やってくれ」と頼まれたときです。
経営層はそんな時に、やれそうな人を読んで「できるか?」と相談します。
相談された人がPMになることが多いはずです。
相談しながら経営層とPMの頭の中では、次のような「?」が駆け巡っています。
これはどの程度難しいことなのか?
いくらお金がかかるか?
どのくらい時間がかかるか?
やる技術はあるか?
やる人はいるか、召集可能か?
こういう懸念に(ある程度)見通しが付けば、プロジェクトが立ち上げられることになります。
そこで欧米なら、先ず作られるのがプロジェクト憲章です。
欧米なら?そう、これは契約社会の欧米的な発想です。
後でもめないように(もめたときに訴えられないように)決めれることはきちんと決めておこう、というわけです。
しかし、日本では「まあ、やってみましょう」といってプロジェクトを立ち上げます。
そのとき誰か偉い人が「責任はオレが持つ」と言うのかもしれません。まさに「プロジェクトX」(NHK)です。
こうして立ち上げられたプロジェクトが炎上すると「みんな何処へ行った 見守られることもなく ♪」という中嶋みゆきの声(プロジェクトXの主題歌)がメンバー頭の中でリフレインすることになります。
すくなくとも、PMBOKを勉強するまではそうでした。
多くの日本人が感動したNHKのドキュメント番組「プロジェクトX」を欧米人が観ると「マネジメントの無能さを指摘した番組なのか」と思うそうです。(@岸良裕司氏)
では、欧米人が下にも置かないPMBOKとは何で、それが推奨する「プロジェクト憲章」とはどんなものなのでしょうか?
プロジェクトの立ち上げに必要な「プロジェクト憲章」とは
プロジェクト憲章という「文書」は、誰が発行し、何が書かれているのでしょう。
そして、その文書は何の役に立つのでしょうか。
- PMBOKとは
- プロジェクト憲章を発行するの誰か
- プロジェクト憲章には何を書くのか
- プロジェクト憲章は何の役に立つのか
PMBOKとは
PMBOKは、Project Management Body of Knowledgeの頭字語で、訳すと「プロジェクトマネジメントについての知識体系」になります。
「PMBOKガイド」は、その知識体系をまとめた本で、2017年に第6版が出て日本語にも訳されています。
※日本語版はアマゾンでも買えますが、高い(11,325円)、分厚くて重い(708頁)読みにくい(コピー防止用の地紋入りの紙を使っている)、訳がわるい、と評判が良くありません。
PMBOKガイドを作ったのは1969年に設立された米国のPMI(プロジェクトマネジメント協会)という非営利団体です。
1969年のアメリカといえばアポロ11号が月面着陸に成功した年で、「60年代に人間を月に送る」というアポロ計画(Apolo project)の成功を謳歌していたときでした。
この壮大なプロジェクトを通じて養われ、必要性が痛感された「マネジメント手法」をさらに研究するために設立されたのがPMIです。
その手法の集大成であるPMBOKガイドが、プロジェクトの立ち上げに必須だとしているのが「プロジェクト憲章」です。
プロジェクト憲章を発行するの誰か
PMBOKガイドはプロジェクト憲章を次のように定義しています。
「プロジェクト憲章は、プロジェクトを正式に認可する文書であり、プロジェクトのイニシエーターまたはスポンサーが発行する」
イニシエーターとはイニシアチブをとる人で、企業では経営層のことです。
つまり、経営層またはクライアントがプロジェクトの立ち上げを正式に許可する文書がプロジェクト憲章です。
さらに、PMBOKガイドは次のように述べています。
「プロジェクト憲章は、プロジェクトマネージャーが会社のリソース(人・モノ・カネ)をプロジェクト活動のために使用する権限を与える」
では、具体的にプロジェクト憲章にはどんなことが書かれているのでしょうか?
プロジェクト憲章には何を書くのか
プロジェクト憲章に文書化されるものとしてPMBOKガイドがあげているのは次のような項目です。
プロジェクトの目的
ゴール(どこまでできれば成功と言えるか)
前提条件と制約条件 (もう決まっていて変更できないこと)
スケジュール
予算
リスク
PMの名前とその責任範囲
ステークホルダー(利害関係者)
しかし、これらの項目を詳細に書くとしたら、それは「プロジェクト計画」そのものです。
「やってみなければ分らない」ことが必ず含まれているのがプロジェクトなのですから、
スケジュール
予算
リスク
を完璧に見通すことは不可能で、それをしようと思うといつまでも「立ち上げる」ことはできません。
したがって、プロジェクト憲章には立ち上げ時点で分かっていること、推定可能なことを大まかに書くだけで良いのです。
では、この大まかな文書は何のために作られるのでしょう?
大まかで良いとはいっても、上記のリストを「文書化する」のは簡単ではありません。
その苦労に値するメリットとは何でしょう。
プロジェクト憲章は何の役に立つのか
プロジェクト憲章の意義は次の点にあります。
関係者全員がプロジェクトの概要(全体)を把握できる
プロジェクトがうまく進まないとき、原点に立ち返るための拠り所になる
プロジェクトがもめたときに、その責任を明らかにすることができる
プロジェクトを進めるうちに、「そもそもこの仕事は何のためにやっているのか」を忘れて余計なことをしてまう、というのは珍しいことではありません。
メンバーの全員がA4用紙1~2枚に書かれたプロジェクト憲章を週に1回でも読み直してみることで、このようなブレを防ぐことができます。
個々のメンバーだけでなく、チーム全体のプロジェクト進行が滞ったときも、プロジェクト憲章に書かれた原点に立ち戻って「どこかで進む方向を間違ってしまったのではないか」を見直すことができます。
プロジェクトがもめにもめた(炎上した)ときに、責任の所在を明らかにするためにプロジェクト憲章が本当に役に立つかどうかは微妙ですが、憲章を作るときに偉い人たちの間で「こう書いてしまってOKですね」という念押しが交わされるはずなので、その「合意」が炎上しない実現可能なプロジェクト目標を設定するのに役立ちます。
まとめープロジェクトは立ち上げが肝心
憲章(チャーター)を辞書で引くと「国王・国家が植民団・自治都市などに創設・権利などを保障する勅許状、認可状」とあります。
かつての大英帝国とチャレンジャーたちの交渉がほうふつとされる歴史的語釈ですが、プロジェクト憲章もスホンサー・オーナーから与えられるプロジェクトマネジャー・チームメンバーの「権利の章典」です。
言い換えると、プロジェクトとはそんな大そうなものが必要なくらいチャレンジングな仕事で、うかうかと立ち上げると「ボーっと生きてんじゃねーよ!」とチコちゃん(@NHK)に叱られることになります。