企業ビジョンの例から学ぶ有用性と作り方のポイント

有名な企業の、あるいは急成長している会社の企業ビジョンを見て、「カッコイイな」と思ったことは誰にもありますね。

私たちは、なぜそれをカッコいいと感じるのでしょうか?

そもそも企業ビジョンとは何で、何の役に立つものなのでしょう。

この記事ではさまざまな企業ビジョンの例を取り上げながら、企業ビジョンの有用性とは何かを考えます。

企業ビジョンの作り方のポイントについても解説しますので、ぜひ参考にしてください。

企業ビジョンとは

ビジョンは未来像とか将来展望という意味ですが、visionの基本的な意味は視力、つまり「見る力」です。

会社を見る力がないと、良い企業ビジョンは生まれません。

 

企業ビジョンと企業理念の違い

話が抽象的にならないように、具体的例を見ながらお話します。

サークルKサンクス

経営理念
わたしたちは、社会に信頼され、成長し続ける企業をめざします。

経営ビジョン
「高齢者(中高年層)にやさしいコンビニエンスストア」
「WAKU WAKU」
「お客様に選ばれるお店」

「社会に信頼されながら、成長を続ける」という経営理念(企業理念)は、シンプルで分かりやすいものですが、「そのために何をするか」までは示されていません。

それが示されるのが経営ビジョン(企業ビジョン)で、「中高年層」「WAKU WAKU」「お客様に選ばれる」などのkey wordが登場します。

このように、企業理念は「企業のあり方、存在理由、目的」を「自覚し、世間に示す」ものです。

企業ビジョンは、企業理念をどう具体化するかの行動指針であり、その行動によって得られる企業の未来の姿を描くものです。

 

会社名にビジョンが表明されている : 無印良品

無印良品は、会社名がすでにビジョンになっています。

無印良品

ビジョン
「良品」には、あらかじめ用意された正解はない。しかし、自ら問いかければ、無限の可能性が見えてくる。

企業理念
良品価値の探求 Quest Value : 「良品」の新たな価値と魅力を生活者の視点で探求し、提供していく。

成長の良循環 Positive Spiral : 「良品」の公正で透明な事業活動を通じ、グローバルな成長と発展に挑戦していく。

最良のパートナーシップ Best Partnership : 仲間を尊重し、取引先との信頼を深め、「良品」の豊かな世界を拡げていく。

「『良品』には、あらかじめ用意された正解はない」は、一見ビジョンらしからぬビジョンですが、ぶれない企業のテーマ、遂行課題が見事に表現されています。

サークルKサンクスとは反対に、無印良品では企業ビジョンを具体化するものとして、Quest Value、Positive Spiral、Best Partnershipという3つの企業理念が表明されています。

 

期間とテーマを打ち出した企業ビジョン : TORAYの例

合成繊維メーカーから大きく業容を拡大しつつあるTORAYは、企業ビジョンを2050年までの長期ビジョンとし、そのテーマをサステナビリティ(持続可能性)としています。

わたしたちは、革新技術・先端材料の提供により、世界的課題の解決に貢献します

企業理念
わたしたちは新しい価値の創造を通じて 社会に貢献します

2050年に向けたサステナビリティ・ビジョン
わたしたちは、革新技術・先端材料の提供により、世界的課題の解決に貢献します

TORAYが得意とする新素材の開発は、地球環境の視点からのチェックがますます厳しくなってきます。「サステナビリティ・ビジョン」はそれを意識した「持続的かつ健全な成長」を目指すものです。

 

目的、使命、価値、反省

会社によっては、ビジョンという言葉を使わずに、パーパス(目的)、ミッション(使命)、バリュー(価値)などの言葉を使っています。

これらは、お互いにどこがどう違うかというより、理念やビジョンのどこにフォーカスして表現するかということです。

上記のTORAYのビジョン「わたしたちは、革新技術・先端材料の提供により、世界的課題の解決に貢献します」は、パーパスでもあり、ミッションでもあります。

過去の不祥事の反省を踏まえた企業ビジョンもあります。

TOYO TIRE(旧 東洋ゴム工業)は2011年に次のような長期ビジョンを発表しました。

TOYO TIRE

「ビジョン’20」ー2020年にありたい姿
・顧客視点をベースに独自技術・マーケティング戦略を持つ存在感ある企業
・CSRをひとりひとりが実践する社会から信頼される企業
・柔軟な発想とチャレンジ精神に富んだ活気あふれる企業

東洋ゴム工業は2007年に、断熱パネルの耐火性能を偽装したことが発覚して、社長が引責辞任しています。

上記のビジョンの1つ「CSR(企業の社会的責任)をひとりひとりが実践する社会から信頼される企業」は、まさにこの不祥事を意識したものでしょう。

しかし、同社は2015年に「免震ゴム性能偽装問題」を起こして、5人の取締役全員が辞任することになりました。ビジョンを掲げても、実行されるとは限らないのです。

 

IT企業のビジョン

IT企業のビッグ・カンパニーは、次のようなビジョンを掲げています。

AMAZON : 日常生活で必要なものがすべて買えるお店に
Google : ワン・クリックで世界の情報へアクセス可能にする
Face Book : 人々にコミュニティ構築の力を提供し、世界のつながりを密にする
メルカリ: 誰もが売買できるグローバル市場で価値を創造する
ヤフージャパン : 世界で一番、便利な国へ

どれもシンプルで分かりやすいものですね。ビジョン(未来像)というより「すでに実現してしるじゃん」という感じもします。

では、創業からそれほど年月がたっていないベンチャーIТの企業スローガンはどんなものでしょうか。

テレビの視聴率評価基準で新機軸を生みだした株式会社 猿(2015年創業)は次のようなパーパス(目的・存在意義)とビジョンを掲げています。

株式会社 猿

パーパス : 人のこころに眠るわくわくを呼び覚ます

ビジョン : マーケティング×組織構築でクライアントのわくわくを生み出す

猿はもともとマーケティング支援をする会社でしたが、それだけでは売り上げに結びつかない例が多く、マーケティング支援に組織構築支援を掛け合わせたサービスの提供を始めたのです。

巨大IT企業のビジョンと比べると、より業務のテーマ(マーケティング×組織構築)が分かるものになっています。

またキーワードの「わくわく」は、クライアントに対してだけでなく、社内向きには「社員一人ひとりにとって『わくわく」できる会社でありたい」という理念も掲げています。

薬局をサポートする電子薬歴システム「Musubi」を開発した株式会社カケハシ(2016年創業)は、次のようなビジョンを掲げています。

株式会社カケハシ

ミッション : ⽇本の医療体験を、しなやかに

ビジョン : 明⽇の医療の基盤となる、エコシステムの実現。

Musubiは「薬剤師が患者と一緒にタッチ機能付き端末画面を見ながら服薬指導を行い、その内容が自動で薬歴のドラフトとして残る」というシステムで、導入する薬局が増えつつあります。

「しなやか」とか「エコ」という表現は、業務内容をうかがわせるには抽象的すぎる気もします(筆者の感想)が、業容拡大を視野に入れて大きく構えたというところでしょうか。

企業ビジョンの作り方

明文化された企業ビジョンがないときに、あるいは現在掲げている企業ビジョンが「ちょっと違うんだよな」というときに、どのように企業ビジョンを作ったらよいかについてお話します。

 

何のために企業ビジョンを作るのか

自社サイトを作るにあたって、about usのページに載せるカッコいい企業ビジョンが必要だ。

こんな了見で企業ビジョンを作る会社はないでしょうが、改めて考えてみると、企業ビジョンは何のために作るのでしょうか?

企業ビジョンを掲げる有用性には、社内向けと社外向けがあります。

社内向けの有用性は、「初心忘るべからず」の一言に尽きるでしょう。

また引き合いに出すのは気の毒ですが、TOYO TIREの「ビジョン’20」にある「CSRをひとりひとりが実践する社会から信頼される企業」というビジョンは、2015年の「免震ゴム性能偽装問題」で爆音とともに吹き飛んでしまいました。

企業にとってもっとも大切なことを、社員がときどき見直して肝に銘じるのが、企業ビジョンの有用性です。

社外向けには、まさにabout usを一言で言い表すのが企業ビジョンです。何をしようとしているのか、どこを目指しているのかを分かりやすく表現して、ステークホルダーの理解・共感と支援を得るために作ります。

 

ビジョンはどう作るのか

企業ビジョンとは、頭で考えて創作するものではありません。

血液がすべての細胞に栄養を届けているように、組織のすべての行動にベクトル(力と方向性)を与えているのが企業ビジョンです。

つまり、スタートアップした企業には、すでにビジョンは存在するし、存在しなければいけないものです。

そのビジョンをどう的確に表現するかは考えるに値するテーマですが、ビジョンそのものを作ろうというのは、たいへん筋の悪い考え方です。

「創作された企業ビジョン」は、社員の心に浸みないし、顧客の共感を得ることはできません。

 

企業ビジョンをいかに言語化するか

企業の理念やビジョンは、すでに企業の組織内に血液として脈々と流れているとして、それを的確に言語化することで、社員が初心を忘れずに行動でき、ステークホルダーの理解と共感を得ることができます。

さまざまな現象から本質を洞察して言語化するのが哲学ですが、企業ビジョンの定立とは企業を哲学することだと言ってもよいでしょう。

・わが社とは何か
・わが社は、そもそもどのように誕生したのか
・わが社にとってもっとも大切なことは何か
・わが社が目指しているのものは何なのか
・わが社は今どのような状況下にあるのか

このような、さまざまな角度、切り口から会社を哲学する(建設的に批判する)ことで、企業ビジョンが言語化されてきます。

では、このようにして企業ビジョンを言語化するのは誰でしょうか?

第一義的にはもちろん経営者の仕事ですが、ビジョンが自身の血肉になっているが言語化するのは得意ではない、という経営者もいるでしょう。

そういう場合は経営者参加の下でプロジェクトチームを作って「哲学する」のもありでしょう。そのプロジェクトを通じて、経営者のビジョンが社員にも血肉化する効果が期待できます。

まとめ

企業ビジョンはホームページの飾りではなく、企業の行く先を定める羅針盤であり、企業の足元を照らす灯りです。

社員の心に浸み、ステークホルダーの共感を得る企業ビジョンを作るには、借り物の言葉に頼らないで会社の真実を見る力が必要です。

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