事業戦略の策定に使えるフレームワークとその活用法【第一歩からの解説】

自社の事業戦略の策定に適したフレームワークを求めて参考書を読んでも、数多いフレームワークの「カタカナ名」を前に茫然と、あるいはウンザリしてしまう、という経験はありませんか?

とくに、初めてプロジェクトに参加して実地にフレームワークを使おうという場合は、何を目安に選択するか見当がつがないのが正直なところだと思います。

しかし、山ほどあるように見えるフレームワークですが、よく使用される基本的なものを6つか7つ理解しておくと、「必要に応じて、必要な部分に他のフレームワークも利用する」ということができるようになってきます。

この記事では、よく使用される標準的なフレームワークを紹介するとともに、それを事業戦略の策定に活用するためのポイントや注意点を分かりやすく解説しています。

カタカナや英語の頭文字にウンザリしていたが、気を取り直して「第一歩」から勉強したい方は、ぜひ参考にしてください。

事業戦略のフレームワークを研究する前に知っておきたいこと

事業戦略を策定するには企業内外の複雑な現状を分析する必要があり、フレームワークの利用は必須です。

しかし、フレームワークを推奨する記事には「これを使えば事業戦略がおのずと見えてくる」的な書き方をしたものがあり、そのつもりでいると期待外れになります。

「フレームワークによる分析」と「事業戦略の決定」の間には、必ずジャンプしなければならない溝があります。

フレームワークを研究する前にまず心構えをしておきたいのは「フレームワークでできること」に過剰な期待を持たないことです。

  • 事業戦略とは
  • フレームワークとは
  • フレームワークでできること
  • フレームワークだけではできないこと

事業戦略とは

事業戦略はふつう「全体戦略と事業戦略」という関係で理解されます。

つまり、複数の事業を持つ企業の特定部門の戦略が事業戦略です。

全体戦略は、単に「経営戦略」と呼ばれることもあり、会社全体の発展のための戦略という意味で「成長戦略」とも呼ばれます。

事業戦略は、市場での競争がおもに意識されるので「競争戦略」とも呼ばれます。

単一の事業部門だけを持つ企業では、事業戦略=全体戦略(経営戦略)になります。

フレームワークとは

「枠組み」という意味を持つframeworkは、経営学では「経営分析のための思考の枠組み」という意味で使われます。

経営学が20世紀の初めにアメリカで誕生したものだということもあり、フレームワークのほとんどは1960年頃からアメリカの経営学者によって提唱されたものです。

現在では代表的なものだけで80以上のフレームワークがあると言われています。

それぞれのフレームワークは、先行するフレームワークを参考にしながらも、独自の枠組みや切り口を持っており、当然それに独自の用語をつけています。

フレームワークを学ぼうとする人がいきなり多くの用語、諸概念を目にするとめくるめく思いがするのも当然ですね。

なぜこれほど多くのフレームワークがあるのか

戦略フレームワークにこれほど多くの種類がある理由の1つは、企業や企業の環境が時代と共に変化してきたからです。

しかし、もう1つの理由は、どのフレームワークも作られた当初においても完璧ではなかったからです。

この不完全さは、分析理論と流動的で複雑な分析対象(現実のビジネス・ビジネス環境)という関係から当然生じることです。

フレームワークだけではできないこと

どのようなフレームワークを使っても現実を完全に分析し尽くすことはできず、事業戦略にとって重要なファクターを分析対象から漏らしてしまう可能性があります。

ビジネスには、予測できない技術革新でイノベーションが起きる、などの不確定要素もつねに含まれています。

したがって、フレームワークを使った現状分析から事業戦略が「論理的帰結」として導かれることは、決してありません。

分析結果による環境理解と意思決定の間には、リスクを賭て飛び越えなければならない溝があるのです。

もちろん、こういう溝があることはフレームワークの有効性を否定するものではなく、むしろ、適切なフレームワークを十分使いこなして、不確実要素を少なくし、意思決定のリスクを小さくすることにフレームワークの意義がある、と言わなければなりません。

多くのフレームワークが使用している基本概念

種々のフレームワークにさまざまな切り口や概念がありますが、その多くはいくつかの基本概念のアレンジ(並べ替え)や応用です。

下記に紹介する基本的なタームを知っていれば、新しいフレームワークを勉強するときもアウェイ感なく取り組むことができます。

  • 強みと弱み
  • 外部分析と内部分析
  • 競争優位

自社の「強み」と「弱み」

この記事の後半で紹介するSWOT分析の軸になるのが、自社の「強み」と「弱み」の分析で、その後の多くのフレームワークでもキーワードになっています。

しかし、企業の内部環境の分析といわれる「強み」と「弱み」の分析も、社内に目を向けるだけでは有効な戦略に結びつけることはできません。

自社の「強み」と「弱み」は、業界の平均水準や理想的な姿との比較ではなく、事業戦略が想定するライバル企業との比較で洗い出ししなければなりません。

外部分析と内部分析

外部分析は外部環境分析とも呼ばれ、自社の事業に影響を与える環境要因を分析します。

内部分析(内部環境分析)は、外部分析に基づいて上記のように自社の「強み」と「弱み」を分析します。

戦略フレームワークには、外部分析のための枠組みを主として提供するものと、内部分析に力を入れるものがあります。

外部分析には、市場分析、競合分析などのミクロ分析と政治、経済などのマクロ分析があります。

内部分析には、自社の製品・サービスの強みと弱みの分析、組織や企業風土の強みと弱みの分析などがあります。

競争優位

事業戦略は競争戦略ともいわれるように、事業戦略のもっとも大きな課題は「どの土俵で戦うか」を決めることです。

競争優位を確立するための戦略では、この後紹介する「ポーターの3つの基本戦略」で提唱された、「コストリーダシップ戦略」「差別化戦略」「集中化戦略」が有名で、多くのフレームワークに影響を与えています。

現代は競争優位が持続しない時代と言われていますが、勝負するポイントが価格なのか、差別化された独自性なのかなどの判断の重要性は変わりません。

事業戦略に使える!知っておきたい基本的な5つのフレームワーク

戦略フレームワークについて語られるときに常に登場する5つのフレームワークの概要をご紹介します。

  • SWOT分析
  • 3C分析
  • 5フォース分析
  • ポーターの3つの基本戦略
  • VRIO分析

SWOT分析

SWOT分析は、1960年代にアルバート・ハンフリー(スタンフォード研究所)が「企業の長期計画はなぜ失敗したか」という研究の中で考案したものです。

SWOTとは、Strength(強み)・Weakness(弱み)・Opportunity(機会)・Threat(驚異)の頭文字で、この4つを企業分析の軸にします。

内部環境 外部環境
Strength(強み

企業の存続・成長の柱となっている内部要因を明らかにする

Opportunity(機会)

企業にとってプラスになる環境要因、時代背景は何かを明らかにする

Weakness(弱み)

企業の業績を低下させ、成長をはばんでいる内部要因を明らかにする

Threat(驚異

企業にとってマイナスになる環境要因、時代背景は何かを明らかにする

3C分析

3C分析は、1982年に大前研一(当時マッキンゼーの経営コンサルタント)が提唱したフレームワークで、自社(Company)、顧客(Customer)、競合(Competitor)という3つのCを分析の軸にします。

自社の商品やサービスの強みと弱みを把握してマーケティング戦略をたてるときに有効なツールです。

  • 自社(Company) 商品・サービスの独自性や魅力、弱点などを分析する
  • 顧客(Customer) 顧客層を明確にして、顧客ニーズへの適合度を測る
  • 競合(Competitor)競合他社の製品・サービスの強みや弱み・評価を分析する

ファイブフォース分析

1979年にマイケル・E・ポーター(ハーバード大学)が提唱したフレームワークで、対象とする業界が有望かどうかを分析するツールです。

ファイブフォース(5Forces)とは、特定の業界に影響を与える「5つの力」のことです。

  1. 既存競合同士の敵対関係
  2. 新規参入の脅威
  3. 代替品・代替サービスの脅威
  4. 供給者の交渉力(仕入れ業者との力関係など)
  5. 買い手の交渉力(供給過剰で値下げ圧力が強いなど)

これらの5つの力が強いほど企業の収益は低下するので、分析結果によっては「事情を撤退する」「新規参入を断念する」などの決断を迫られます。

新規参入の脅威、代替品・代替サービスの脅威には未来予測が含まれるので、分析には不確実性が伴います。

ポーターの3つの基本戦略

ファイブフォース分析を考案したマイケル・E・ポーターが提唱した「競争戦略を選択するためのフレームワーク」です。

「ポーターの3つの基本戦略」は、ファイブフォース分析で得た業界の力関係の分析をもとに、次の3つの競争戦略から自社に合う戦略を選択して、競争優位を獲得しようというものです。

  1. 価格戦略(コストリーダーシップ戦略)
  2. 差別化戦略(付加価値戦略)
  3. 集中戦略(コスト集中戦略または付加価値集中戦略)

価格で優位に立つには、ある程度の企業規模が必要です。差別化戦略で優位に立つには、他社が容易に真似できない製品やサービスの独自性が必要です。

ターゲットを限定する集中戦略には、価格面の集中戦略と差別化での集中戦略の2つがあります。

VRIO分析

VRIO(ブリオ)分析は、内部環境を分析するためのフレームワークです。
経済価値(Value)、希少性(Rarity)、模倣困難性(Inimitability)、組織(Organization)という4つの経営資源を分析して企業の「底力」を計量します。

  1. 経済価値(Value) 商品・サービスが世の中にどれくらい役立っているか
  2. 希少性(Rarity) 商品・サービスに他社にない希少性があるか
  3. 模倣困難性(Inimitability) 商品・サービスが他社が簡単に真似できないものか
  4. 組織(Organization)企業風土、組織風土に他社にはない強みがあるか

この4つの底力大きいほど、予測できない外部環境の変化に耐える力が大きく、企業の存続性、発展性が期待できます。

事業戦略でフレームワークを利用するときの注意点

フレームワークを選ぶとき、利用するときは、以下の点に注意しましょう。

  • 自社の特性に合ったフレームワークを選ぶ
  • 選んだフレームワークの使うべき部分を取捨選択する
  • 戦略策定には自社の企業風土、組織風土を考慮する必要がある

自社の特性に合ったフレームワークを選ぶ

使用するフレームワークが自社の特性や置かれている環境に合っているかどうかは非常に重要です。

新しいエリアへの新規参入など、事業戦略の目的や方向によっても選択するフレームワークは違ってきます。

選択するためには主なフレームワークの得意分野を知っておく必要があるので、そのための勉強は必要です。

選んだフレームワークの使うべき部分を取捨選択する

事業戦略を立てるときに、採用した1つのフレームワークだけで間に合うことはほとんどありません。

外部環境の分析にはファイブフォース分析、内部環境の分析にはVRIO分析など、分析対象に応じて使い分けることが大切です。

1つのフレームワークだけを盲信するのは、フレームワークを使うというよりフレームワークに使われることになり、重要な観点をスルーしてしまうことにつながります。

戦略策定では自社の企業風土、組織風土を考慮する必要がある

どのような立派な事業戦略でも、それを実行するのは組織であり、組織に属する人間です。

事業戦略はできたが現場が非協力的では効果は上がりません。

実効性のある企業戦略を作るには、策定段階でそれを実行する組織風土を考慮に入れることが不可欠です。

官僚が作った国の経済施策に産業界が冷淡だというのはよくあることですが、企業の事業戦略がそのようなものでは困ります。

事業戦略のフレームワーク まとめ

事業戦略の策定にフレームワークの利用は欠かせません。

初めてフレームワークを使用するときは、その種類の多さに戸惑いますが、基本的なものをいくつか勉強すると、新しいものを学ぶのが楽になってきます。

フレームワークを使用するときは、その効果を過信せずに自社の特性に合ったものを適材適所で利用することが大切です。

フレームワークによる分析結果を事業計画に反映するのは、もう一段上の次元の判断になりますが、その判断にいかに正しい分析で寄与するかがフレームワークを使うことの値打ちです。