採用ブランディングが中小企業にとって人材確保の決め手になる3つの理由
採用の売り手市場傾向が強まるなか、中小企業にとっては人材確保がますます難しくなっています。
採用担当者は従来の採用手法に手詰まり感を抱きながら、打開策を見いだせないのが現状ではないでしょうか。
そんな中で、今後中小企業の人材確保の決め手になるのでは、と注目されているのが「採用ブランディング」という新しい採用手法です。
この記事では、採用ブランディングとはなにか、なぜ採用ブランディングが中小企業に有効なのか、採用ブランディングを行なうにはどうしたら良いかを、基本から分かりやすく解説しています。
これまでのやり方で予算を使っても応募が少ない、あるいは苦労して採用しても短期間で辞めてしまうなど、「採用のミスマッチ」に悩んでいる方はぜひ参考にしてください。
採用ブランディングとは
よく耳にする「ブランディング」というマーケティング用語に「採用」の二文字が付くとどんな意味になるのでしょうか?
- そもそもブランディングとは
- 採用ブランディングとは
- お互いにとってのオンリーワンのめぐり会いの実現
そもそもブランディングとは
ブランディングとは、商品・サービスを「説明抜きでわかる存在」にしていく企業活動のことです。
餃子といえば王将、引っ越しといえば0123など、既にブランド化された有名な商品・サービスを思い浮かべると「中小企業には難しい」という気がするかもしれません。
しかし、そういうゴールから考えるのではなく、今ある商品・サービスを少しでも顧客に親しみやすい、有益なものにしていくのがBrandingという現在進行形(ing)の活動です。
その意味でブランディングに関係のない企業はありません。
採用ブランディングとは
採用ブランディングとは、企業が欲しい人材に「この会社は自分のようなタイプの人間を求めている」と分りやすくアピールする採用活動のことです。
頭脳明晰で、やる気があって、お客様の受けが良く、同僚ともうまやれる人材が欲しい、という、宝くじを買うときのようなつもりで採用活動をしても、中小企業ではうまくいきません。
また、求職者自身も自分をそんな人材だとは思っていません。
短所もあるが長所もあると自覚している求職者に「この会社なら自分の長所を生かせる」と思わせるのが採用ブランディングです。
お互いにとってのオンリーワンのマッチングを実現
採用ブランディングは、大企業でも楽々合格するようなハイスペックな人材を獲得できる魔法の採用手法ではありません。
むしろ「できればあるに越したことはない」というスペック(資質)をぎりぎりまで削ぎ落として、「これだけは絶対必要」という資質を持つ人材を確実にゲットするのが採用ブランディングです。
中小企業でも会社によって求める人材要件は違います。しかし、ライバル企業とは要件が似ていると考えなくてはいけません。ライバル企業とは商品市場だけでなく、採用市場でも競争をしているわけです。
ライバル企業が必要な人材の要件を絞りきれなくてうろうろしている間に、いちはやく求める人材にアプローチしてゲットするのが採用ブランディングです。
中小企業に採用ブランディングが有効な3つの理由
中小企業にとって採用ブランディングが「最後の決め手」になると考えられるのには、次のような3つの理由があります。
- ミスマッチ採用が少なくなる
- 採用コストが低くなる
- 社員の会社愛が深まる
ミスマッチ採用がなくなる
経費と時間をかけて採用した社員が期待外れだった、あるいは新入社員にとって会社が期待外れだったら、お互いにとって不幸です。短期間での退社ということになるかもしれません。
採用ブランディングは、欲しい人材のスペックを絞り込んで明確にするので、このようなミスマッチが起こりにくいのがメリットです。
また、採用ブランディングは候補者に人材要件を明確にアピールするだけでなく、仕事内容や会社の雰囲気もできるだけ伝えるようにするので、入社後に強いミスマッチ感を持つことがありません。
採用コストが低くなる
採用ブランディングが軌道に乗ると、採用にかかる費用が年々低下していくようになります。
求人メディアに求人広告を載せなくても、自社独自のサイトやSNSなどで欲しい人材にアプローチすることができるからです。
求人メディアを使う場合も、広告の載せ方(アピールの仕方)が上手になるので、近年のような売り手市場でも「応募者がない!」という最悪の事態にはなりません。
人材紹介会社に年収の30%もの成功報酬を支払わなくても、自社にマッチする人材を確保できるようになります。マッチ度の高い人材を採用できれば中途退社も減るので、年度途中での採用活動の必要もなくなります。
このような成果をすぐに上げることはできなくても、採用ブランディングを行なうことで採用ノウハウが蓄積していくので、年々効果が高まっていくことが期待できます。
社員の会社愛が深まる
採用ブランディングが成功すれば、先輩社員たちの会社愛も深まります。
「ちょっと言い過ぎじゃないの」と思うかもしれませんが、ブランディングには内向きの効果が必ず伴います。
例えば、自社独自の採用サイトを立ち上げるには、職場紹介や社員インタビューで社員の協力を得なければなりません。それを通じて会社の理念や会社が目指す方向への既存社員の理解も深まります。
また、やりがいのある良い会社であることをアピールするには、実際にそういう会社であること、そういう会社にしていくことが必要です。経営者もその自覚を強くするはずです。
社員の会社へのロイヤリティーが高まり、仕事のモチベーションが上がると、採用担当者以外も人材ハンターになり得ます。先輩が「うちの会社はいいよ」というのと「やめといた方がいい」というのでは雲泥の差です。
採用ブランディングを成功させるポイント
採用ブランディングを成功させるには、全社的な取組みと、性急に結果を求めない長期的な取組みが必要です。
- 全社的に取り組む
- 長期作戦で取り組む
全社的に取り組む
ブランディングが全社的な取組みなのは言うまでもありませんが、採用ブランディングもトップを含めた全社的な取組みにしないと上手くいきません。
最初は従来の採用手法と平行して行なうことになるので、予算面での裏付けも必要です。
「この会社はこういう人材を求めている」ということをアピールするには、既存社員の業務評価制度と連動していないとリアリティがありません。
また、社内報の担当者や製造部門、営業部門とも、ツールづくりや会社説明会などで一緒に行動する場面がでてくるので、部門の垣根を取り払った協力体制が求められます。
世代の近い若い社員の意見を聞くことも重要です。
長期作戦で取り組む
採用ブランディングは長期的な取組みになるので、トップに一朝一夕の効果を期待されると人事担当者の立場がなくなります。
かといって、何年も後でなければ効果が出ないというわけではありません。初年度に実施したことが求職者の目に留まって、求める人材の採用までこぎつけることももちろんあります。
しかし、継続することでノウハウが蓄積し、コンテンツが充実していくこで大きな効果が出てくるのが採用ブランディングの良いところです。
採用ブランディングの方法
実際に採用ブランディングを行う際に、何をどんな手順で実施して行けばよいのでしょうか。
- 採用プロジェクトを立ち上げる
- 自社がアピールできる強みを洗い出す
- 求める人物像を明確にする
- アピール手段を決めてコンテンツを作る
- 外部の採用ブランディング・サポートサービスを利用する
採用プロジェクトを立ち上げる
採用ブランディングは、人事担当者が一人でやるものではなく、人事部や総務部内部でやるものでもありません。
少なくとも初年度は、社長または専務などの経営層や、製造部門、営業部門などの代表者をメンバーにしたプロジェクトチームを立ち上げることが必要です。
広報や社内報の担当者がいればかならずメンバーに入れましょう。入社1,2年の若い社員の参加も望ましいところです。
自社がアピールできる強みを洗い出す
プロジェクトの初仕事は、自社が人材マーケットにアピールできる「強み」を洗い出して言葉にすることです。
企業戦略、マーケティング戦略を立てるときの定石は、まず自社の「強み」と「弱み」を洗いだすことですが、採用戦略を立てるときも同じです。
「大手と違ってとくにアピールできるような強みはない」などと言っているようではいけません。そもそも大手企業と比べることが間違っています。ライバルは大手企業ではなく、似たような人材を求めている競争企業なのです。
ライバル企業に比べて自社にはどんな強みや魅力があるのか、製品やサービにどんな社会的な意義があるのか、などを洗い出して、簡潔な言葉にまとめることが重要です。
プロジェクトにさまざまな立場のメンバーがいるのも、なるべく多くの角度から「強み」を探るのに役立ちます。各メンバーが自分の職場にかえって取材やヒアリングをすることができるからです。
求める人物像を明確にする
次の作業は、採用したい人材の人物像(パーソナリティ、キャラクター)を明確化することです。その際は、理想像ではなく、これだけは必要という条件を出すことが大切です。
あれもこれもと欲張ると人物像がどんどんボケていき、応募者にも「それは私だ!」というインパクトを与えることができません。
具体的な人物像がなかなか思いつかなかったら、自社の若手のエース社員を思い浮かべるとヒントになるかもしれません。
アピール手段を決めてコンテンツを作る
自社の「強み」と欲しい人材の人物像が決まったら、それをアピールする手段を決めます。
webに採用サイトを立ち上げる、facebookにフェイスページを設けるなど、webやSNSの利用も考えましょう。求人メディアの広告も従来の内容、表現方法を一から見直す必要があります。
その他に、インターン制度を新設する、会社説明会を兼ねたイベントを企画するなど、検討すべきことはいろいろあります。
アピールする手段を決めたら、メンバーで役割分担してそれぞれのツールのコンテンツを作っていきます。
コンテンツは大手企業のサイトのようなおしゃれなデザインである必要はなく、むしろ手作り感のある「わが社らしいもの」を作るのがまさにブランディングです。
ただし、独りよがりで相手に伝わりにくいものでは意味がないので、その意味ではプロのデザイナーや編集者の手を借りるの良いでしょう。
外部の採用ブランディング・サポートサービスを利用する
最近は企業コンサルティング会社などが、採用ブランディングのコンセプト作りなどをサポートするサービスを始めました。
そういう所に頼りきるのは、採用エージェントに頼る従来の採用手法と「人任せ」という意味では同じで、採用ブランディングの趣旨に反することになりますが、主体性をもって利用するなら導入がスムーズになる効果も期待できます。
採用ブランディングのサポートサービスをしている会社には、企業戦略の構築をサポートするコンサルティング会社、採用エージェントの別会社、SNSの採用向けのツールを提供するIT会社などがあります。
採用ブランディング まとめ
採用ブランディングは、成功すれば中小企業の人材確保の決め手になりうる採用手法です。
ただし、費用をかければよい、専門家に任せばよいというやり方ではないので、試行錯誤しながらでも自分たちの頭で考えて、アイディアを1つずつ実行し、ノウハウを蓄積していく必要があります。
なかでも採用ブランディングの成功に欠かせない条件は、経営者層の理解と協力のもとに全社的な参加体制を作ることです。