プロジェクトの進め方ー4つの遅延要因とその対策
プロジェクトの進め方を考えるときに「関係者と事前にリスクを洗い出して想定外を無くす」などという「それができれば苦労はない」という注意事項をいくら並べてみても役に立ちません。
そもそも「想定外」がないような仕事をプロジェクトとはいいません。
想定外が必ず生じ、どんどん遅れていくプロジェクトをいかに進行させるかーこの記事ではこの難問にチャレンジしています。(プロジェクトだ!)
想定外に良い答えが見つかるか、やっぱり役に立たない「お念仏」か、じっくりお読みいただきたいと思います。
プロジェクトはなぜ遅れるのか
プロジェクトが遅れるのは計画が悪かったからではなく、ルーチンワークでは解決できないテーマに挑むプロジェクトという業務の宿命です。
- 新しいものを創るプロジェクトには「未知」の部分がある
- ひとつ山を越えた先に何があるかは登るまで分らない
- プロジェクトには臨時の組織ゆえの「ぎくしゃく」がつきもの
- バッファ(余裕)を食い尽くす人間の性
- 計画を変えたくない心理
新しいものを創るプロジェクトには「未知」の部分がある
プロジェクトは、通常の業務では解決できない「課題」を達成するために招集された組織です。
課題の内容には必ずルーチンワークにはない「未知」の部分があり、それを既知化するための「発見」が必要です。
プロジェクトの進行が予定通り進むかどうかは、まさに「やってみないと分らない」のです。
ひとつ山を越えた先に何があるかは登るまで分らない
「熊が山を登った。熊が山を登った。熊が山を登って見たものはー山の向こう側だった」というナンセンスな英語の童謡があります。(The Bear Went Over the Mountain)
プロジェクトの進行過程にはいくかの山があり、山のてっぺんに上ったとき何が見えるかは登ってみるまで分かりません。
山の向こう側の道が2つに分かれていて、どちらに進んでよいか分からないこともあるでしょう。それならまだしも、まったく道らしきものがなくて引き返さなくてはならないこともあります。
このように、プロジェクトは「計画通りに進行させよう」と思うことが、そもそも間違っている仕事なのです。
プロジェクトマネジメントの「世界標準」と仰がれるPMBOK(A Guide to the Project Management Body of Knowledge)も、山に登ったときに向こう側に何が見えるかまでは教えてくれません。
プロジェクトには臨時の組織ゆえの「ぎくしゃく」がつきもの
プロジェクトを進行させるのはITツールではなくて人間です。そこには「人間的な諸問題」がつきものです。
まして、プロジェクトは新しく編成された臨時の組織なので、チームには「気心の知れない」メンバーが参加しているのが普通です。
お互いに大人なので、中学校でクラス替えをした当初のように、あちこちで取っ組み合いのケンカが起きるーなどということはありませんが、性格や「気の強さ」などを値踏みしあう期間があるのはどんな新組織も同じです。
新組織ゆえのそんなぎくしゃくは、チームが成熟するにつれて1つのベクトルに収束していくものですが、最初のボタンのかけ違いが後々まで尾を引いて、チームの生産性を蝕むことがあります。
バッファ(余裕)を食い尽くす人間の性
「全体最適」というマネジメント学で有名な岸良裕司氏は、著書の「最短で達成する全体最適のプロジェクトマネジメント」(KADOKAWA)で、「プロジェクトにまつわる人の性」として次のような問題行動を指摘しています。(p22~26)
サバ読み : この仕事に何日かかるかと聞かれたときに多めの日数を答える
予算と時間をあるだけ使う : 多めの日数をもらったらそれをあるだけ使う
一夜漬け : もらった日数ぎりぎりまでテンションが上がらない
説明不要の「あるある」ですね。
岸良氏は「私もそうする」と言っているように、これはらはけっして低次元のサボタージュ心理ではなく、誰にもある人間の性と心得るべきでしょう。
計画を変えたくない心理
クライアントや経営層にとって納期は非常に重要ですが、プロジェクトマネジャーがその意識に引っ張られ過ぎると、「計画変更をためらったためにプロジェクトが行き詰る」という本末転倒が生じる危険があります。
プロジェクトは「上層部に承認された計画」を守るためにあるのではなく、ゴールに到達するためにあるということをつい忘れてしまうのです。
新しいものを創るというプロジェクトの性質上、最初の計画は変更されるのが当然ということを、プロジェクトに関わる全員が了解しておくことが肝心です。
プロジェクトの進め方でPM、PLは具体的に何ができるのか
プロジェクトマネジャー(PM)とその補佐をするプロジェクトリーダー(PL)は、プロジェクトの進行ために「具体的に」何ができるのでしょうか?
- 工程管理ー「とりあえず次に行く」ことを許可する
- リスク管理ー「問題があるかも」を報告しやすくする
- コミュニケーション管理ーチームではお互いに「さん付け」で呼びある
工程管理ー「とりあえず次に行く」ことを許可する
プロジェクトの最終ゴールに到達するまでのタスクの進行は、あくまで「仮の進捗」です。メンバーもそれを知っているので、次工程に進む前(あるいは渡す前)に「本当にこれでいいのか」と見直したりためらったりします。
もちろん見直し(チェック)は重要ですが、各メンバーが各工程で「これでいいのか」とためらい、それが積み重なると、計画はどんどん遅れていきます。
プロジェクトマネジャーは「とりあえずコレで行く」を許可する姿勢をチームに示す必要があります。
この姿勢によってメンバーは、「きちんやってから次工程に進め」と言われるより、「一応できましたが、こんな問題が生じる可能性があります」と言いやすくなります。
生じうる問題がメンバーの心の中に隠されたままプロジェクトを「進行」させると、心配が的中したときにあちこちにブラックボックスが生じていて、修復が困難になります。
リスク管理ー「問題があるかも」を報告しやすくする
PMの仕事はリスク管理だといわれますが、具体的に何をするのがリスク管理なのでしょうか?
先ほど紹介した岸良裕司氏の著書では、リスクマネジメント技術の一つとして、進捗についてPMがメンバーに聞くときの「質問の仕方」をあげています。
「問題があるとしたらなんですか?」
この質問はリスクを前もって予測して報告してもらうための、非常によい手である。(中略)
ある現場に行ったところ、「問題はありませんか?」という質問をしたら、「問題ありません」と回答がきた。そのすぐ後に「問題があるとしたら何がありますか?」と聞いたところ、10件以上の問題が出てきて、その現場のマネジャーも思わず苦笑してしまった経験がある。
出典:「最短で達成する全体最適のプロジェクトマネジメント」P187~188
さらに岸良氏は、この質問で問題が出てきたときは「何か助けられることはないですか?」と聞くことが大切だと述べています。
「この質問をすると、可能性のある問題について、現場が対策を考えざるを得なくなる。それが、現場の考える力を鍛えていく。」(p190)
コミュニケーション管理ーメンバーはお互いに「さん付け」で呼び合う
プロジェクトに組織の上下関係を持ち込むと、仕事がやりづらくなります。また、組織外からもクライアントやフリーランス、協力会社の社員が参加することがあり、そこにも立場の上下があります。
このような上下関係の気遣い、気苦労をなくすには、お互いを「〇〇さん」とさん付けで呼ぶことをルールにするのが効果的です。
年配のメンバーが若いメンバーを「〇〇君」と呼ぶのも感心しません。お互いにさん付けにすることによって、若いメンバーには大人の気構えができ、ベテランは気持ちが若返ります。
また、ミーティングで発言の少ないメンバーに対しては、PMやPLはとくに注意深く見守ってやる必要があります。そういう人は仕事上、あるいは人間関係で問題を抱えている場合があるからです。
プロジェクトの進め方 まとめ
プロジェクトの進行でもっとも肝心なのは、工程のあちこちにブラックボックスを作らないことです。
そのためにPMやPLは、メンバーが「生じうる問題への危惧」を自分の心の中に抱え込まないように配慮しなければなりません。