OKRの成功例 | あの有名企業がなぜOKRを導入したのか

目標管理のフレームワークの1つであるOKRは、とくにIТ企業の間で注目され、導入する会社が増えています。

その理由は、google、Facebook、メルカリなどの名だたるIТ企業が導入して成果を収めたと言われているからです。

また、短期間で成果を確認し、軌道修正する必要があるスタートアップ企業では、OKRはとくに効果的な手法とされているからです。

この記事では、目標管理手法としてのOKRの特徴を確認しながら、導入して成果を上げた企業がどのようにその特徴を生かしたのかを解説します。

Googleが重視する社員の「心理的安全性」とOKRは相性が良い

数百とも言われるプロジェクトチームを抱えるGoogleは、チーム内に「下手なことを言うと損をする」という空気が生まれないように、それがメンバーの創造性を委縮させないように、社員の「心理的安全性」を重視しています。

例えば「知らない」とか「それは疑問だ」などとネガティブな発言をするとバカにされると思うと自由な発言ができなくなります。そんな心の壁を作らないで済む「心理的安全性」が担保されることで生産性と創造性が高まると考えるのです。

この心理的安全性とOKRという目標管理手法には、次のような相性の良さがあります。

  • 目標は100%達成する必要はない
  • OKRは組織内での異論を許容する
  • OKRはトップダウンとボトムアップが調和する
  • 評価が給料やボーナスには影響しない

 

目標は100%達成する必要はない

OKRの特徴の1つは、「目標の 60~70% しか達成できない高い目標を掲げる」という、いわばダメ元含みのチャレンジを奨励することです。

Googleは目標設定について次のように述べています。
実際のところ、OKR の使い方は他の目標設定の手法とは異なります。簡単に達成できないような目標を設定するのが OKR の狙いだからです。こうした方法で OKR を使用すると、チームは大きな目標を見据えて専心し、完全には達成できなくても予想外の成果を挙げられるようになります。チームや個人が自らの殻を破り、仕事の優先順位を判断して、成功と失敗の両方から学ぶことができる点が、OKR のメリットと言えるでしょう。

引用元:https://rework.withgoogle.com/jp/guides/set-goals-with-okrs/steps/introduction/

OKRでは簡単には達成できない高い目標の設定が、チームや個人にプレッシャーを与えるのではなく、創造性を引出す契機になるという点は非常に重要です。

 

OKRは組織内での異論を許容する

組織では、「ちょっと違うんだよな」と思っても異論を唱えにくい雰囲気が生まれがちです。

しかし、OKRで大きな目標を共有することによって、かえって小さな気づき、異論を唱えやすくなるとGoogleは指摘します。

組織の一員として、優れたアイデア、価値のあるプロジェクト、必要とされる改善に異を唱えるのは難しいものです。しかし、最も重要な目標について全員で合意すると、それより重要度の低い案に対して異を唱えることが容易になります。政治的または感情的な理由で異を唱えるわけではなく、組織全体ですでに合意した目標に基づいて理性的に反応できるようになります。

引用元 : 同上

異を唱えても、政治的、感情的な発言と思われない心理的安全性が生まれるのです。

 

OKRはトップダウンとボトムアップに合意形成がある

OKR(Objectives and Key Results)は、目標(Objectives)とそれを達成するための成果指標(Key Results)の組み合わせです。

組織、チーム、個人が、いかに「意味のある目的」と「目的達成に有効な成果指標」を設定することができるかが、結果を左右します。

そして、各人が達成を目指す成果指標は、与えられたものではなく「合意形成」されたものであることに大きな意味があります。

Google で目標を設定する際は多くの場合、組織の OKR の設定から着手します。3~5 個の目標を立て、それぞれの目標について成果指標を 3 個ほど設定し、全体としての優先順位を決めます。

OKR は、トップダウンとボトムアップ双方の提案が組み合わさることで高い効果が期待できます。それには、時間をかける価値があると思うことは何か、最大限の力を発揮するにはどうすればよいかなど、組織の誰もが意見を述べられる土壌が必要です。

引用元 : 同上

各個人が自分の達成すべき成果指標を「時間をかける価値がある」と納得していることは、モチベーションを維持する上で非常に重要です。

 

OKRの評価は給料やボーナスには影響しない

Googleでは、四半期ごとにOKRの達成度を評価しますが、それは給与査定のための評価ではありません。

もしOKRの達成度によって給与が査定されるなら、社員は「70%程度しか達成できない」ようなチャレンジングな成果指標を設定するのを嫌がるでしょう。

OKR は、実績を評価するためのツールではない。言い換えれば、OKR は個人や組織を包括的に評価する手段ではないということです。むしろ、個人が前期にどのような仕事に注力していたかを要約し、組織の OKR への貢献や影響を明らかにするために使用するものです。

引用元 : 同上

Googleは、四半期の中頃にすべてのレベルの OKR を予備検証して、個人とチームが現時点でどこにいるかを把握できるようにします。このような検証が自由に(有効に)行えるのも、その結果が人事評価とは別だからだといえます。

Sansanのエンジニアたちが「納得」できたのが、OKRの成果指標

クラウド名刺管理「Sansan」や名刺アプリ「Eight」を展開するSansan株式会社。同社は最初目標管理ツールとしてMBOを使用していましたが、「エンジニアの理解が得られなかった」という理由で2015年にOKRに切り替えました。

 

会社の目標とチームの目標の方向性の一致にエンジニアが納得

MBOとOKRのもっとも大きな違いは、OKRはチームや個人の目標や成果指標を社員のだれもが見ることができ、本人も納得の上で取り組むことができるということです。

Sansanの取締役Eight事業部長の塩見 賢治氏は、OKRのメリットについて次のように述べています。

MBOでは、営業現場は良くても、なかなかエンジニアの理解を得ることが難しかったんです。

「何を求められているのかわからない」「プロダクトの方向性は?」「これをやっている意味は何なのか」と言った声が上がってくるようになり、コミュニケーションの難しさをすごく感じていました。

その点、OKRを使うことで、「会社の方針はこれ、それを受けた部署の方針はこれ。その中で評価していくから、この範囲の中で各自がオリジナリティを出そう」といった形で明確にできるんですね。

引用元 : https://seleck.cc/1110

本人と直属の上司だけが目標を知っているというMBOの目標管理では、なぜ今自分がこれをしなければならないのかについて十分な納得が得られなかったのです。

 

あのGoogleがやっている、というのも大きかった

SansanはOKRの導入に際して、元Googleの社員にコーチングをしてもらいました。

塩見 賢治取締役は、「エンジニアが『イケてる』と思う企業でOKRが導入されていることも、結構重要でしたね」と語っています。

社員の「心理的安全性」が最近注目を浴びているのもGoogleの影響ですが、OKRでも「あのGoogleがやっている」というのは、たいへん大きいようです。

Chatworkは、OKRのスタートアップにとってのメリットに着目

Chatworkは、試験的な導入を経て2017年にOKRを本格的に導入しました。

導入の理由は、社員が50~60名の規模になった頃から、「誰が何をやっているのか」が見えづらくなってきたからだいいます。

また、それまでマネジャーが集まって行っていた人事評価も、社員が増えるつれて運用の負担が増えたことも理由の1つでした。

 

評価のサイクルが短く、見直しができる

Chatworkが目標管理のフレームワークとしてMBOではなくOKRを選んだ理由について、代表取締役CEOの山本正喜氏は次のように述べています。

私たちのようなスタートアップだと、半年後には社員の仕事内容が大幅に変わってしまうことも多々あります。そのため、意味ある目標にするためにも、短いサイクルで柔軟に変更・改善できるフレームワークがいいと思いました。

引用元: https://www.hito-link.jp/media/interview/okr-chatwork

このようなスタートアップにとってのメリットに加えて、山本氏は「OKRの良いところは、定量目標と定性目標がバランス良く設定できるところです」とも述べています。

 

OKRは評価に連動はさせないが「参考にする」

OKRは人事評価制度と連携させないで、各チームや個人がチャレンジングな目標を設定するのが原則ですが、Chatworkは導入当初あえてOKRと評価制度を連携させてスタートしました。

その理由は、「OKRと評価制度を二重に走らせる運用は大変だと思った」(山本氏)からです。

しかし、やはりそれによって、最初から目標を低く設定するなどの弊害がでたので、翌2018年にOKRの運用方法を変更しました。

「OKRを通してどれだけチャレンジしたか」に対する評価を入れています。

最終的にはマネージャーがメンバーのパフォーマンスを見て、評価点を決めます。極端な話ですが、OKRの達成率が0%でも、良い評価点をつけることもできます。もちろん、マネージャーがきちんとした評価理由を説明する必要がありますが。

引用元:同上

しかし、経営幹部には、「まだまだムーンショットでの目標設定の感覚がつかめていない」という反省もあります。

つまりアポロ計画当時の「人類を月面に立たせる」というようなチャレンジングな目標設定ではなく、手堅い目標を掲げてしまいがちだというのです。

もっと挑戦的な目標を社員が掲げるように組織にしていくのが、Chatworkの今後の課題だといいます。

まとめ

OKRは社員の創造的なチャレンジを必要とするIТ企業、スタートアップでは、大きな成果が期待できる目標管理手法です。

導入を成功させるためにもっとも重要なことは、チームや個人が、会社全体の目標と自分の目標のベクトルの一致を実感し、「達成するに値する目標であり、成果指標だ」と納得することです。

その納得のためのコミュニケーションに会社のリソースを投入しないと、OKRは絵に描いた餅になり、ムーンショットを生むことはできません。

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