インセプションデッキとは?その作り方・メリット・目的・実例を紹介

もし事業担当者(PM・PDM・PO)の方の中で「プロジェクトメンバーに確実に同じ方向に向かせたい」「これまでのアジャイル開発が100%上手く言ったとは言えず、効率的かつ高精度に推し進めていきたい」といった願望がある方は、ここで解説するインセプションデッキについて理解を深めることを強くオススメします。

当記事では以下の流れでインセプションデッキについて網羅的に解説していきます。

  • インセプションデッキとはなにか
  • インセプションデッキの目的やメリットについて
  • インセプションデッキの作り方・注意点
  • インセプションデッキの実例

当然インセプションデッキの概念を理解するだけでは、利点は活かせません。

そこで具体的なインセプションデッキの作成方法、その上で意識しておきたいポイントについても理解しながら、チーム一丸となってプロジェクトを推進するための情報をまとめていきます。

インセプションデッキをうまく活用することができれば、【チーム内で目指すべき目標】を全メンバーが相違なく認識し、【能動的にメンバーが動きやすい環境】を整え、【効率的にコスト・納期・クオリティをクリアした成果】を出すことができるはずです。

それではいきましょう。

インセプションデッキとは

インセプションデッキとはThoughtWorks社のRobin Gibson氏が考案したものでアジャイル開発の現場でも多く取り入れられる「これからスタートするプロジェクトの全体像(目的・方向性・優先順位・開発環境など・コストや人材・背景)をプロジェクトメンバーが相違なく認識する為に作成するドキュメントです。
※アジャイル開発についてはこちらの記事(「アジャイル開発とは?その手法からメリットやデメリットを紹介」)を参照ください。

インセプションデッキ:Inception Deckは直訳すると「最初のカードの束」、その言葉のとおりこれから走り出すプロジェクトの概要をまとめ、メンバーが同じ認識・目標をもって行動するためのもの。

ドキュメントを作成、というと敷居が高く感じるかもしれませんが、実はインセプションデッキは10の質問に応えることで作成できるというもの。

プロジェクト関係者の皆さんがそろって回答することでより効果的なドキュメントになります。

メリットも大きく良いものを作りたいというあなたの希望を間違いなく叶えてくれるインセプションデッキ、ぜひ作成して下さい。

インセプションデッキをつくる目的

メリットを知る前に、インセプションデッキを作成することの目的も理解しておきましょう。

インセプションデッキとは何か、を確認いただいた方ならもう予想済みかもしれませんが…

【他に負けない最高のシステムを、能動的に動けるメンバーがそろった状態で、チーム一丸となって効率的に完成させる!】

これです。これがインセプションデッキを作成する目的です。

この結果を目指さないプロジェクトはない、のではないでしょうか?

これを目指さないプロジェクト果たして成功できるのか?

…私見ではありますが、上手くいく可能性は限りなく低いのではないかと考えます。

インセプションデッキをつくるメリット

インセプションデッキを作成することはメリットしかないのでは?!というほど大きなメリットがあるのです。

  1. チームメンバーが共通の目的・目標を明確に認識できるようになる
  2. 目指すところを理解した上で各メンバーが求められる役割を理解し行動できるようになる
  3. 競合と明確な違いのある価値あるシステムを構築できる
  4. トラブルや障壁にぶつかった時にもスムーズに的確な対応がとれるようになる
  5. プロジェクト遂行に必要なものを全てスタート前に準備できる

このようなメリットがあるインセプションデッキ、一文でまとめるなら…


【プロジェクトスタート前に全ての必要なものを準備し、チームが一丸となって同じ目標に向かって能動的・協力的に業務遂行することができ、結果として競合に負けない良いものを作れるから】

ということになるでしょうか。

いかがですか?全てのプロジェクトにとってインセプションデッキを作成することはメリットになる、ということがお分かりいただけたのではないでしょうか。

インセプションデッキの作成方法

実はインセプションデッキは10の質問に回答するだけで作成できます。
考案者Jonathan氏のブログ(英語のみ)に掲載されています。)

質問は以下の十項目です。

  1. 我われはなぜここにいるのか
  2. エレベーターピッチを作る
  3. パッケージデザインを作る
  4. やらないことリストを作る
  5. 「ご近所さん」を探せ
  6. 解決案を描く
  7. 夜も眠れなくなるような問題は何だろう
  8. 期間を見極める
  9. 優先順位は?
  10. 何がどれだけ必要なのか

それぞれの質問の意図や回答のポイントについては、以下で解説するので引き続き目を通してみて下さい。

 

インセプションデッキ質問①:我われはなぜここにいるのか

ここは、何のためにこのプロジェクトが発足し、チームを組んでいるのか、を明確にする為に回答します。

  • 対象となる顧客は誰?
  • プロジェクト発足の理由は?
  • なぜこのプロジェクトが必要?

何故??ということにフォーカスした質問に偏っているのには訳があります。

どうして作るのか、なぜこのプロジェクトでなければならないのか、ということを明確にすることで、競合に差を付けられる存在意義のあるプロジェクトにすることができるから。

目的を明瞭に、明確にしておくことでより有効なインセプションデッキが作成できるのです。

 

インセプションデッキ質問②:エレベーターピッチを作る

エレベーターピッチなんて作ったことないぞ!?という方も安心して下さい。

以下の[]内を埋めれば簡単にエレベーターピッチが作成できる雛型があります。


[目的:潜在するニーズを満たし、抱える課題を解決したい]したい

[顧客名]向けの、

[プロダクト名]というプロダクトは、

[プロダクトカテゴリー]です。

これは[導入するメリット:重要な利点、対価に見合う説得力のある理由]ができ、

[競合サービス:代替手段の最右翼]とは違って、

[差別化できる特徴]が備わっています。

※[]内を埋めてみましょう。

どうでしょう?

簡単にエレベーターピッチが作成できましたね。

もちろん上記を参考にオリジナルのエレベーターピッチを作成してみる!というのも良いでしょう。

 

インセプションデッキ質問③:パッケージデザインを作る

クラウドサービスも多く提供される今、
「パッケージなんて必要ないぞ?」という方もいるかも知れませんね。

それでも良いのです。

このプロジェクトの完成をイメージしやすくするためにやってみて下さい。

パッケージデザインと凝り固まるよりは、イメージロゴ・キャラクターなどと考えても良いかも知れません。

言葉で理解するだけでなく、目で見て分かるイメージでよりメンバー間の認識齟齬を埋め、明確に同じところを目指す為にやっていただきたいのです。

…想像してみてください。

わかりやすいイメージを頭の中に描いた状態で業務にあたるあなた。

対象的にイメージはなく文字だけで理解し業務にあたるあなた。

どちらも業務遂行するのには違いはありませんが、イメージできるものがあるとないと、では文字の裏にあるものを汲み取ることができるか、という点において大きな違いがあるはずです。

 

インセプションデッキ質問④:やらないことリストを作る

この質問の意図はチーム内のメンバーに向けられるものだけではなく、顧客との認識を合わせておくためにも重要なファクターとなります。

このシステム開発でやること、やらないことをはっきりとさせる為に考えます。

目線としては、

  • やること
  • やらないこと
  • 後で決めること
以上の3つの観点で考えると良いでしょう。

 

インセプションデッキ質問⑤:「ご近所さん」を探せ

ご近所さんとはここでは「プロジェクトに関わる人物」をピックアップしておくことを指しています。

実際のチームメンバーはもちろん、何かあった時に頼れる外部の人材や、顧客側の担当者などこのプロジェクトに関わる全ての人を明記しておくことで今後の作業もスムーズになります。

 

インセプションデッキ質問⑥:解決案を描く

システム開発するにあたり、技術的に必要となるものは何かを洗い出す為の質問です。

今回開発したいものにあわせてプログラミング言語はどうするのか、ライブラリ構成はどうするか、どのようなツールが必要か、その他に必要なものがあればピックアップしましょう。

 

インセプションデッキ質問⑦:夜も眠れなくなるような問題は何だろう

夜も眠れなくなる、というのはかなり大きな問題なのではと思うかも知れませんが、ここで回答すべきは「あらゆる問題・課題・障壁」となり得るものをピックアップし、その解決策は何かということです。

起こり得るトラブル、課題についてどのような対策がとれるのか事前に準備しておくことは、その後の業務進行を確実にスムーズにしてくれます。

 

インセプションデッキ質問⑧:期間を見極める

これから始まるプロジェクトですから、ここで確実な納期を設定する訳にはいかないですよね。

ここではあくまで最初の目標として、どの程度の時期にどこまで終わらせておくべきか、目算として設定しましょう。

大枠を可視化することで今後の作業にイメージをもって取り組みやすくなります。

 

インセプションデッキ質問⑨:優先順位は?

以下の4項目と、追加で今回のプロジェクトにおける大切なポイントを4つあげ、合計8項目に関して優先順位を確定しておきます。

  1. 全機能の搭載
  2. 納期の遵守
  3. 予算
  4. クオリティ

必ずどれも被らないようち順位をふりましょう。

この作業は後に何か起こった時、思うように進めない壁にぶつかった時の行動の指標とすることができます。

 

インセプションデッキ質問⑩:何がどれだけ必要なのか

この質問では主に、コスト・人・期間がどれだけ必要なのかを洗い出しまとめていきます。
人、というところでは人数だけでなくポジション毎に必要な人数と求める役割についても明記しておくのがオススメです。

参画するメンバーが作成したインセプションデッキをみて、能動的に期待される動きをしやすくなり、生産性もアップするので忘れないで欲しいポイントです。

インセプションデッキを作成する際の注意点

インセプションデッキを作成する際の注意点は以下です。

  1. 絶対不変の資料ではなく適宜見直しも必要と心得ること
  2. 中心的な限られたメンバーで作成しないこと

このポイントを反故にしてしまうと、せっかくのインセプションデッキのメリットが損なわれてしまうことになりますので注意しましょう。

とくにインセプションデッキ作成に関して、限られた一部のメンバーで作成することは、結局トップダウンの一方的なものになってしまいます。

メンバーの認識齟齬の原因にもなりますので注意して下さい。

インセプションデッキの実例

10の設問に全員で回答していくことに意義があるインセプションデッキ、メリットも多くプロジェクト成功に役立つものとご理解いただけたのではないでしょうか。

ここで、興味深い実例として日経XTECKHに掲載されているものを紹介させていただきます。

日経XTECH ボックスソフトウェア社に関する話題の内容を要約すると、同社はプロジェクト立ち上げ時に納期を半減する、という無理難題とも思える壁にぶつかります。

そこで企業再生に多くの実績を挙げているコンサルタントの助言とサポートをうけ、インセプションデッキをメンバー全員で作成することに。

当初はインセプションデッキの作成もリーダー主導ですすめようとしてしまうという失敗もありましたが、そこでのコンサルタントの助言「これらの質問はメンバーの疑念を引き出すためにあるのだから、どんどん質問してくれ」もあり、リーダーひいては会社への疑念や不安(不満もあったかも知れない)を解消しながらプロジェクトを進めていくのです。

このコンサルタントの発言こそ、ここでお話ししたかったインセプションデッキを活用する意味でもあり、メリットでもあるのです。

リーダーに質問しづらい、発言しづらい、そういった縦社会こそがインセプションデッキを活用することで良い方向に舵をきるきっかけになるということではないでしょうか。

他にもこちらの実例も参考にしてみてください

まとめ

他に負けない最高のシステムを最高のチーム状態で作り上げる支えになるインセプションデッキ。

インセプションデッキについて、どんなもので、どんな意味があって、どんなメリットがあるのかということとあわせて、どのように作成すれば良いのかポイントも含めてお伝えさせていただきました。

ここでお伝えした情報をもとに、まとまりあるプロジェクトチームで、効率よく良いものを全員で作り上げることができるはずです。

これから走り出す皆さんのプロジェクトが最高の形で完了していただけることを期待しています。

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