共感マップとは?その目的から作り方の実例を紹介
ペルソナはマーケティング戦略のアイデアの源泉ですが、近年はペルソナをより多面的、重層的に捉えるための思考装置(フレームワーク)がいろいろ発明されています。
「カスタマージャーニーマップ」は、さまざまなタッチポイントでのユーザー体験User Experience(UX)を時系列で整理して「旅するペルソナ」を多面的に捉えようとします。
「共感マップ」は、ユーザー体験を「見る・聞く・考える・話す・痛みを感じる・欲する」という6つの層に分けて、それぞれの層でのペルソナの感情に共感することでユーザーニーズを捉えようとします。
どちらも近年注目されているマーケティング手法ですが、この記事では「共感マップ」について、その目的や作り方などを分かりやすく解説しています。ぜひ、参考にしてください。
共感マップとは
共感マップは1枚の紙に、ペルソナが何を「見たり・聞いたり・考えたり」しているかを、短い言葉でたくさん書き集めたものです。
ペルソナはユーザーのいわば「表側」のプロフィール、世間に見えている横顔ですが、共感マップはユーザーのさまざまな意識層に分け入ったときに見えてくるプロフィールです。
なぜそれが「共感マップ」と呼ばれるかというと、マーケターや開発者がこのマップによってユーザーに共感する手掛かりが得られるからです。その共感からユーザーニーズが見えてきます。
共感マップの目的
共感マップの目的は、ユーザーのさまざまな意識・感情に共感することで、ユーザーニーズを捉えることです。また、このマップを作ることでユーザーへの「共感力」を高めるという目的もあります。
ペルソナの設定で示される人物像は、いわば小説の初めのページにある「登場人物の紹介」で、まだ物語は展開されていません。共感マップは、まだ物語そのものではありませんが、登場人物(ユーザー)の思考や感情の断片が1枚の紙の上に散りばめられています。この散りばめられた素材を物語(ユーザーニーズ)に組み立てていくのが、マーケターの共感力です。
共感マップのもう1つの目的は、開発チームの全員がユーザーニーズの把握に必要な「素材」を共有することです。ペルソナの設定だけでは、そこから想定されるユーザー体験(UX)にはメンバー間でのズレがあります。それをできるだけ小さくしてくれるのが共感マップです。
共感マップの作り方
共感マップは次のような手順で作成します。
- 1.共感マップのシートを用意
- 2.中央にペルソナのアイコンを記入する
- 3.ブレストや顧客調査のデータから、共感マップに書き込む情報を洗い出す
- 4.ペルソナ視点で考えるための6つの要素
- 5.チーム全体でペルソナを共有、ブラッシュアップしていく
1.共感マップのシートを用意
まず、共感マップの白地図を用意します。テンプレートを印刷しても良いし、自分で作ることもできます。
2.中央にペルソナのアイコンを記入する
シート中央の円にペルソナのアイコンを描きます。単なる顔)マークでも、ペルソナを象徴する人物の顔写真でもかまいません。
3.ブレストや顧客調査のデータから、共感マップに書き込む情報を洗い出す
共感マップを作るには、ブレストによるペルソナの仮説または、リサーチによるペルソナに関するデータが必要です。その情報に基づいて、ペルソナの意識や感情を洗い出し、該当する欄に書き込んでいきます。
この書き込み(言語化)が、マーケターや開発チームのメンバーがペルソナに共感するためのフック(引っ掛けどころ)になります。
4.ペルソナ視点で考えるための6つの要素
共感マップは6つの領域に区切られており、それぞれがペルソナ視点で考えるための要素です。
1.「見ているもの」を洗い出す
ペルソナが見ているもの、といってもたくさんありすぎるので、開発中の商品やサービスと連想関係にあるようなものを洗い出していきます。「風が吹くと桶屋が儲かる」的な遠い因果関係や連想関係でもかまいません。
例えば、釣りをテーマにしたソーシャルゲームを開発中なら、釣り好きのペルソナが日常生活でふと目を留めるものは何かを考えます。朝、通勤のときに目にするスタンドの釣り情報紙、ユーチューブの釣り動画、魚屋の店頭、海辺の旅館をロケした旅番組など「釣り心」刺激するさまざまなシーンがあります。
2.「聞いていること」を洗い出す
周囲の人たちからペルソナが聞いていることです。釣り仲間の自慢話やホラ話、釣りの師匠と仰ぐ人の教訓、「今週も釣りなの」という妻の恨み節、釣り船の船頭の「今日はなぜ釣れないのか」という100通りもある言い訳など、ペルソナが耳が何に反応するかを洗い出します。
3.「考えていること・感じていること」を洗い出す
ペルソナがいつも考えていること(考えていそうなこと)を書きだします。その中には、口に出しては言わないこともあるでしょう。釣行前夜の「バカ釣れする仕掛け」の工夫やそれを使ったときの爆釣の妄想、欲しいけれども高価な釣り道具のこと、釣り場に向かう電車でいつもするシュミレーションなど、さまざまです。
4.「言っていること・やっていること」を洗い出す
ペルソナがふだん言いそうな言葉、していそうな行動を書き出します。釣行費をひねり出すために昼食代を節約する、釣った魚のサイズは1.5倍して吹聴する、餌釣りをバカにする人をイイ格好しいだと非難する、スーパーの肴を見ると鮮度が悪いとディスるなどなど。
5.「痛みを与えるもの」を洗い出す
ペルソナがふだん抱えている痛みや不安を書き出します。釣りに行って坊主だったときの帰りの電車の憂うつ、収入のかなりの部分を釣りに使うので貯蓄がゼロ、釣友ばかり釣って自分がサッパリ釣れない悔しさ、釣り新聞は釣果を水増ししているという疑惑、釣り道楽に対する妻の苦言、などなど。
6.「得られるもの」を洗い出す
ペルソナがふだん欲しているものやことを書き出します。宝くじに当たって会社を辞めて釣り船を買って釣りざんまいの日々を送る、釣りだけでなく料理の腕も一流になって有名になる、在宅ワークで海辺に引越して毎朝釣りをする、オリジナル仕掛けが商品化されて大ヒットする、などなど。
5.チーム全体でペルソナを共有、ブラッシュアップしていく
できた共感マップを用いて、チームのメンバー全員でペルソナに対する深い理解と共感を共有します。上記の例でもわかるように、釣り好きの気持ちや行動を深く理解しないで釣りのソーシャルゲームを作ることはできません。
また、共感マップは新しいリサーチや情報を加味して、つねにブラッシュアップしていくことが必要です。
共感マップを作る際の注意点
共感マップは、無限といってもよいくらいあるペルソナの意識や感情から、そのペルソナに特有で本質的な素顔を捉えようとするものです。
アイデアを出すためには、まずブレインストーミングをすることがおすすめです。短い時間でたくさんのアイデアが得られます。しかし、それだけでは仮説としてのペルソナに留まり、思い込みにすぎなかったり、重要なポイントを見逃している可能性があります。
ブレーンストーミングの後に、あるいは共感マップを一応作った後に、想定されるユーザーにヒアリングして検証することは非常に重要です。
共感マップの使い方
もっとも重要でかつ難しいのは、せっかく作った共感マップを有効に利用することです。共感マップは作ること自体にも、ペルソナを肉付けする(物語のネタを得る)意味がありますが、できたマップをどう使うかがより重要です。
書き留めたユーザーの特性から直接ニーズを特定しましょう。ユーザーが言っていることとやっていることの不一致のような、2つの特性の間に見られる矛盾点に基づいてニーズを特定します。
UXデザイン(ユーザー体験の設計)のオンライン教育で有名なInteraction Design Foundation社のチーフディレクターRikke Dam氏は、共感マップの使い方について、次のような重要な指摘をしています。
ユーザーが言っていることとやっていることの不一致のような、2つの特性の間に見られる矛盾点に基づいてニーズを特定します。
引用元:https://www.interaction-design.org/literature/article/empathy-map-why-and-how-to-use-it
つまり、共感マップに現れたペルソナの感情や行動に互いに矛盾するような点があれば、そこにペルソナにとってインパクトの強いユーザー体験があり、真のユーザーニーズが隠されている、という知見です。
「共感マップに基づいて、ユーザーのニーズを組み合わせましょう。これによってデザインする上での課題が定義できるようになります」(引用元:同上)と述べているのも同じ意味です。
矛盾に気づき、なぜそのような奇妙な矛盾があるかを考えることで、ユーザーが熱烈に欲しているが満たされていないニーズを発見できるというのです。。
まとめ
共感マップは、ペルソナの設定だけでは見えてこないユーザー体験を洗い出し、そのニーズを明らかにするフレームワークです。
共感マップを作る過程でもペルソナは肉付けされていきますが、できた共感マップを有効に利用してプロダクトの課題を発見することがもっとも重要です。