キャリアアンカーとは?8つの分類から人事における活用法を解説!

「この仕事は自分に向いていないんじゃないか」
仕事がうまくいかないとき、誰しもそう思った経験があるでしょう。
もしかすると、順調な日々であるにもかかわらず、そんな思いに駆られることがあるかもしれません。
「転職」「異動」といったキーワードが浮かぶこともありますが、それと同時に、「失業」「引っ越し」「家のローン」「学費」など、その何倍もの心配事が頭をもたげます。
自分は本当は何を望んでいるんだろう?
自分にとって本当に大切なことは何だろう?
現役のビジネスパーソンであれ、就職活動をしている学生であれ、見当違いな方法で自分と対峙しようとしても、時間が無為に過ぎるばかりです。
自分の人生やキャリアについて考えるときに非常に有用な概念があります。
それが「キャリアアンカー」です。
この記事では、キャリアアンカーとは何か、そして私たちのキャリア選択のあり方にどう役立つのかをご紹介していきます。
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目次
キャリアアンカーとは
キャリアアンカーとは、個人が職業的キャリアを選択し積み重ねていく際の基軸となるもので、たった一つの人生を営む個人にとって、仕事のためであろうと家庭のためであろうと、絶対に譲ることも犠牲にすることもできない重大な価値観、欲求、動機、能力などの組み合わせを指します。
キャリアアンカーは、それぞれの個人の長い時間と様々な経験によって培われてきた非常に強固なもので、周囲からの干渉や環境の変化によって容易に変わるものではありません。
それはまさに「船の錨」(アンカー)のように、個人が位置を定め、航路を保つ役割を果たすものです。
したがって、キャリアアンカーは、生涯を通じて個人のキャリアを決定づける重要な要素であるということができます。
なぜキャリアアンカーが注目されているのか?
従来は、「企業が求める能力や人物像に個人が合わせる」図式、すなわち「キャリアサバイバル」と呼ばれる組織側のニーズに基軸を置いた思考方式が主流であり、それが通用していました。
キャリアサバイバルにおいては、「アウトサイド・イン」と表現される思考法による行動が求められ、組織や個人を取り巻く環境の変化に対してどう順応し生き残るかが最も重要でした。
しかしながら、ビジネスを取り巻く環境全体が高い流動性を持ち、いわゆる「グローバル化」した環境においては、人材が一つの組織に固執する動機は相対的に低くなるのは必然的なことです。
また、AIに代表される技術革新や市場側のニーズの多角化によって、企業の側も自らの生き残りを賭け、競合との差別化を図って高い競争力を持つ組織を構築する必要性が高まりました。
そこで企業としても、限定された人材リソースの持つ貴重な価値を認め、つまり個人のキャリアアンカーを認めながら組織を構築することに一定の価値を見出し、適切な人材配置や能力開発に役立てるようになったのです。
従業員のキャリアンカーを把握するメリットとは?
キャリアアンカーを度外視して従来式に考えた場合、従業員は組織の求める人物として生き残る努力を続けて働き、その度合いにより役職が上がっていくような構造です。
しかし、企業が求めるところと従業員個人のキャリアアンカーに不一致が生じているとすれば、どんなに優秀な従業員であっても、見当違いの配置転換に対する不本意さからパフォーマンスが下がり、将来的なキャリア形成にも悪影響を及ぼし、最悪の場合には貴重な人材が失われることにつながりかねません。
むしろ、キャリアアンカーに意識的でない企業の現状はこのようなものでしょう。
従業員のキャリアアンカーを把握することには企業にとっても個人にとってもメリットがあります。
代表的なメリットとして次のようなものが挙げられます。
モチベーションアップ・生産性向上
自分のキャリアアンカーにマッチした業務においては、社員個人のやる気、モチベーションが高まり、それぞれの持つ能力を十分に発揮した成果を出すことが期待できます。
そして、個人のモチベーションアップは組織全体に対する波及効果を持ち、企業の生産性を高め、競争力の強化につながるでしょう。
自己分析・キャリアプランニング
自分のキャリアアンカーを把握することによって、自分が順応し成果を出しやすい分野や業務を知ることができます。
また、分野や業務に限らず、自分がどのように働くことを望んでいるのかという側面でも理解を深め、今後どのように自らのキャリアを形成していくか計画することに大いに役立ちます。
人事への活用
企業が従業員のキャリアアンカーを把握し、これに基づいた人事を行うことにより、適任者を配置することが可能になるとともに、全体として人事配置に関する従業員側の不満を最小限にとどめることができます。
異動に関する具体的な希望が叶わなかった従業員に対しても、その従業員のアンカーに基づいて説明し、配置された職場でどのような活躍を期待しているのか、信ぴょう性を持って鼓舞し励ますことができます。
社員教育への活用
中堅以上の従業員に対しては、部下を管理し育てる視点から、キャリアアンカーの重要性を理解させ、各自の特性に応じた職場運営を行ない、円滑に機能するチームづくりに役立たせることができるでしょう。
また、新入社員に対しても、そのときどきで目が向くやりたい仕事だけでなく、自分が今後どのように働き、何を大切だと感じるか、譲らないかという姿勢を形成することの重要性を説明するためにキャリアアンカーの概念を用いることが役立ちます。
キャリアアンカーの8つの分類
キャリアアンカーをメリットあるものとして活用するためには、キャリアアンカーにはどのようなものがあるのかを知る必要があります。しかし、個人の傾向は多種多様ですから、ある程度の分類によって把握するのが合理的です。
マサチューセッツ工科大学のエドガー・H・シャインは、キャリアアンカーの8つの分類を特定し、人それぞれが持つ仕事に対する好みの傾向を明らかにしました。
1人の人に1つの傾向しかないというわけではなく、通常は複数のタイプが混じり合っているものです。
その中でもどの特性が強いのか、それぞれの優先順位を意識して考えることには十分な価値があります。
- 専門職別能力
- 全般管理能力
- 自律・独立
- 保障・安定
- 起業家的創造性
- 奉仕・社会貢献
- 純粋なチャレンジ
- 生活様式(ワーク・ライフ・バランス)
専門職別能力
何かが得意で、特定の分野での優れた才能と高いモチベーションを持っており、そこで専門家としての能力を発揮することに喜びを見出します。
そして、自分の専門性やスキルがさらに向上することに強い関心を持ち、その道の第一人者となるべく努力を尽くします。
職位が上がり管理的ま業務を行なうよりも、自らが現場の第一線で活躍したいと望みます。
逆に、異なった分野における業務に従事すると、自らの能力を活かすことができていないと感じ、充足感が低下してしまいます。
全般管理能力
専門的能力の価値は認めつつも、企業経営に必要な全般的な管理能力の獲得を重視します。
人を管理してまとめ上げ、集団を率いて問題解決に当たって権限を行使することを望み、組織内の責任ある立場を求めます。
人々との交渉に成功したり、重要な仕事を成功させることで自分がさらに成長することに幸せを感じます。
マネージャーや経営者を目指した出世意欲の強いタイプで、どれだけのポストに上りつめられたかを成功の主要な尺度と認識しています。
自律・独立
組織の規律や他者の作ったルールに縛られることを嫌い、自分独自の手法で仕事を進めることを望むタイプです。
自らのスタイルを確立しており、マイペースで仕事することを好むため、企業組織に属することを希望しません。
組織に属していたとしても、自分で納得のいかない規範や方法に苦しむことが多く、独立する機会を探す傾向があります。
人に頼らずに自由度の高い仕事に喜びを見出し、自律的に行うことが求められる研究職のような仕事に適しています。
保障・安定
生活の主要な要素として安定性と継続性を求めており、社会的、経済的な安定を得ることを望みます。
リスクを負うことを絶対的に嫌がり、予測できない変化を避ける強い傾向があります。
ゆったりした気持ちで仕事に臨みたいと感じ、大企業や公務員としてのキャリアを目指す人が多いです。
1つの組織に修正を尽くし、余程のことがなければ自ら離職することはありません。
組織内でも大きな変化を伴う異動などに対してはストレスを感じやすく、新たなことに順応することもあまり得意ではありません。
起業家的創造性
既成概念にとらわれずに新しい物事を発明する優れた創造性を持っています。
自分のビジネスを運営することに幸せを感じ、経済的成果が成功の基準です。
企業に属し続けることは少なく、起業家、発明家、芸術家などを志向します。
リスクを取ることを恐れず、新しい製品、サービス、システムなどを世に送り出すことを願っています。
また、そのために資金を調達して組織を立ち上げることもあります。企業としては、社内ベンチャーのようなプロジェクトの旗振り役として活用することもできます。
奉仕・社会貢献
サービス精神に富んでおり、自分の才能を使うよりも、他の人々を助けることができる仕事に強い動機づけを感じます。
「世の中のためになるかどうか」を最も大きな価値判断の基準としており、公共サービス、医療、看護、社会福祉、教育などの分野を志す傾向があります。企業内の不正を見逃すことはできず、そのため人事や監査の分野で能力を発揮することもあります。
誠意を重視し、社会的に意義のあることを実現するため、転職したり、非営利事業を立ち上げることもあります。
純粋なチャレンジ
常に挑戦に駆り立てられ、継続的な刺激と困難な問題を求めます。
困難な問題を解決したり、優秀なライバルとの競争に喜びを感じます。
自分の得意不得意とは関係なく難しい仕事に挑戦したがる傾向があり、障害を克服し、厳しい苦労を乗り越えることに幸せを感じます。
退屈さを嫌がり、ルーティーンワークを着実にこなすような仕事には適していません。
不可能に見えることを実現しようと様々な分野の仕事に挑戦するため、キャリア形成には一貫性が乏しいことがあります。
生活様式(ワーク・ライフ・バランス)
自分個人や家族の願いと仕事などのバランスや調整に対して意識的に力を入れています。
生活のパターンとしては、仕事と私生活のバランスを常に均衡させている傾向があるとは限らず、仕事と生活の統合を重視し、旅行その他の趣味んど自らの情熱が向くことを行うために長期間仕事を休むことさえあります。
仕事熱心な一方、子どもが生まれると、男性であっても育児休暇を取得するなどして積極的に育児に関わることを望んでいます。
仕事以外の自分の生活を大切にするため、在宅勤務にも高い関心を持ちます。
キャリアアンカーのタイプを判定する方法
キャリアアンカーのタイプを判定するに当たっては、もっぱら職業的な内容からスタートして考えてはいけません。
むしろ重要なのは、個人として何を大切にしたいのか、その考え方や価値観、望んでいる働き方を探っていくことです。
そこで有益なのが、前出のエドガー・H・シャインによる次の3つの問いかけから判定・分析をスタートすることです。
- やりたい好きなことは何か?
- 得意なことは何か?
- どのようなことをやっている自分に価値を感じられるか?
これらの問いに対する回答のリストを元に、自分の本当の興味や関心、情熱や楽しみを特定していき、強みと弱みを理解し、職業キャリアの可能性への考察につなげていくことも可能です。
そのプロセスで役立つとされている手法を3つご紹介しますね。
自分史を書く
自分を知るための情報を最も多く持っているのは自分の過去で、そこには膨大な量の経験、知識、記憶が含まれています。
それを振り返り、単に事実を記述するのではなく、自分の価値観や考え方と関連することを思い浮かべ、記録していきます。
私生活において、学業において、仕事において、様々なターニンングポイントにおいて、どのようなことを考えのたか、何を感じていたのか、あるいはどう変化したのかを想起していくと、自分が大切にしているもの、志向してきたものが浮かび上がってくることでしょう。
ロールモデルを見つける
尊敬している人、「ああなりたい」と憧れている人について分析するのも、自分のキャリアアンカーを特定する作業において有益なことです。
というのは、その人の良いところ、見習いたい部分には、自分の価値観や欲求が投影されているものだからです。
「自分はこの人のどの部分を尊敬しているのか」と改めて自問自答していくことで、他者について考えながら、実際には自分が大切にしている価値観を発見する作業を行なっていくことになるのです。
その中で、生き方、仕事への取り組み、ライフスタイルなどにおいて自分が譲れない価値観を探り当てることに近づけることでしょう。
キャリアアンカー診断
インターネット上で公開されている診断サイトを利用するのも、手軽に自分の価値観を探る方法の1つです。
「キャリアアンカー」「診断」などのキーワードで検索すると、無料で利用できるサイトがたくさんヒットしますので、気軽に試してみましょう。
自分に隠れた意外な価値観と再開できるかもしれません。
まとめ:キャリアアンカーは楽しい人生のヒント
ここまで、キャリアアンカーとは何か、どんな種類があって、どのように特定できるかについて見てきました。
確かに、日々の多くの時間を仕事に費やしている私たちは、キャリアアンカーを特定することにより、より良い職業生活につなげられることに高い価値を感じるものです。
しかし、シャインの問いかけで「明日の出張先への道順」を答える必要がないというだけでも、キャリアアンカーというものが、いかに私たち個人の価値観にフォーカスした概念であるかを感じることができるのではないでしょうか。
私たちは働くために働いているわけではありません。
自分を知ることによって、より良く、より楽しい人生を送るのに役立てたいものです。